【この世界の片隅から】 ジェンダーギャップ指数101位の国・韓国のキリスト教 李 相勲 2025年10月21日

今月初め、英国国教会の首座主教であり、世界のアングリカン・コミュニティにおいて要の役割を担うカンタベリー大主教にサラ・ムラリー氏が選出されたとのニュースが日本を含む世界を駆けめぐった。女性のカンタベリー大主教の誕生は、英国国教会における女性司祭の誕生(1994年)から約30年目に実現した出来事であった。
ジェンダーギャップ指数というものがある。これは、ジュネーブに本部を置く世界経済フォーラムが毎年発表する各国ごとにジェンダー間の格差を表した指数であり、経済・教育・健康・政治の4分野を評価して算出されている。今年2025年版のジェンダーギャップ指数では、英国は148カ国中4位であった。つまり、世界で4番目にジェンダー間の格差が小さい国であるとの評価が与えられたわけである。そのような英国において今回カンタベリー大主教に女性が選出されたことは、英国社会の現状を反映した自然な出来事であったとも見ることができるであろう。
では、本稿の主要対象国である韓国のジェンダー間の格差は、どのように評価されているのであろうか。2025年版では101位となっている(ちなみに日本は118位)。この順位から、他国と比べて韓国では、ジェンダー間の平等があまり進んでいないことが分かるが、韓国の中でもジェンダー間の平等が特に進んでいない組織の一つがキリスト教会であると言える。
昨年9月21日付本欄において、毎年9月に韓国の主要プロテスタント教団の総会が開催されることに触れつつ、韓国教会における女性の牧師按手をめぐる歴史と現状についてお伝えした。その際、女性への按手(牧師・長老)を認めていない大韓イエス教長老会(合同/以下、合同派)が9月末に開催する総会では、礼拝において説教を行う「講道権」を女性に付与するかどうかが争点となっていることにも触れた。審議の結果、女性への講道権付与案は通過をみた。合同派では講道権が与えられた講道師として1年以上務めることが牧師按手のための条件となっているが、女性が講道師になる道がこのことによって開けたわけである。
これを受け、合同派の憲法における関連条項の改正が行われることとなり、今年9月の総会において改正案が提出され、通過した。しかしながら、その内容は牧師の資格を男性にのみ制限することを明文化し、女性の牧師按手を否定するものであった。このように女性は講道師にはなれるが、牧師にはなれないことが明確化されたため、女性への牧師按手を求める人々に落胆と憤りが広がった。1451人の代議員すべてを男性が占めた同総会には、女性への講道権付与の撤回自体を求めた建議案も三つの老会(教区)からそれぞれ提出されていた。
同じく9月に開催された大韓イエス教長老会(統合/以下、統合派)の総会では、総会代議員のクオータ制の導入の是非が議題に上った。同クオータ制は、10人以上の代議員を派遣する老会は1人以上の女性代議員を派遣しなければならないとする内容のものであった。今年は統合派における女性への按手付与30周年の年だったこともあり、同制度の採択への期待が支持者の間で広まっていたが、結果は2票差での否決となった。

合同派の総会の様子(提供=NEWS&JOY)
今年の統合派総会における代議員1500人のうち女性は57人で、その比率は3.8%であった。同じ長老派教会の中では韓国基督教長老会(基長)の今年の9月総会における女性の割合は12.8%であり、統合派に比して高い割合となっているが、韓国の国会議員に占める女性の割合が約20%となっているので、それと比較するとかなり低いレベルにあることが分かる。その基長の総会では、女性代議員の割合の上昇につながると考えられる女性長老の増加を目指し、各教会において3人の長老を立てる場合にはそのうち1人は女性としなければならないとする議案が提出されたが、否決されている。
宗教意識に関する韓国リサーチによる2024年の調査によれば、韓国プロテスタントに占める女性の割合は55%であるが、30代で44%、18歳から20代の世代で42%と年齢が下がるにつれて女性の割合も下がっている。韓東大学教授のソン・ファチョル氏は総会における男性偏重が若い世代の女性ほど教会から離れる原因の一つとなっていると推測している。また同氏は、今日の韓国社会において、教会ほど男女間の差別の克服に向かおうとする社会的な流れに逆行し、男女間を露骨に分け隔てている組織は存在しないと指摘している。
韓国教会における女性の権利をめぐる良きニュースが、世界を駆けめぐる日が来ることを心より祈り願いたい。

李 相勲
い・さんふん 1972年京都生まれの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、名古屋学院大学国際文化学部教員。専門は宣教学。














