【宗教リテラシー向上委員会】 「一致の焦点」と「多様性」 世界の聖公会の動向から 與賀田光嗣 2025年11月1日

 9月20日、神戸教区主教按手式が行われ、私の属する教区に新主教が与えられた。聖公会はカトリックや正教会と同じく使徒継承を謳い主教制を置く。西原廉太主教によれば、聖公会(Anglican Communion)の主教職の最も重要な働きとは「一致の焦点」としての職務である。地方教会と教区、普遍的教区の一致の焦点としての意味だけではない。聖公会の教区(パリッシュ)理解では、すべての人(信徒/非信徒問わず)への牧会的配慮が求められる。そのため主教は信徒・聖職、地域社会の人々の声を「傾聴」し、聖書と時代や状況といった文脈から解釈学的に意味を読み取り「教える」役割となる。

 「一致の焦点」を象徴するのが主教選挙だろう。私もこの春に主教選挙に参加した。カトリックの教皇選出のように大聖堂を閉め切り、出入り禁止のもと行われた。違いといえば各地方教会から選出された信徒代議員の存在である。主教選挙では聖職者議員と信徒代議員の各3分の2以上の賛同が必要となる。英国の上院と下院を想像しても良いかもしれない。イエス自身がそうであったようにさまざまな声に耳を傾けることの重要性が示されている。

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 主教按手式で主教被選者は司式主教からの試問を受けるが、その答えはどれも「神の助け」によって努めることが明記されている。人々の声を聞き、自分自身の内奥の声を聞き、「神の助け」を求め祈る姿は、教会の働きを象徴するものとなる。そして各教区主教たちが主教被選者の頭に手を置き、「神の助け」である聖霊が注がれることを祈る。キリスト者は何事においても「神の助け」なしにはなしえないからだ。聖書をめくると常に祈るイエスの姿が描かれている。

 聖公会では「多様性における一致」という言葉がよく使われる。文化や地域由来の多様性は神の恵みを反映し、教会をより豊かにさせる賜物だと考え、主教制や教区制、さまざまな制度にその現れが結実している。例えば世界中の主教によるランベス会議は互いに学び合うのが目的であり、決議はするが各管区への法的拘束力は持たない。何かを定義付けするのではなく時代状況の中で時には迷い、祈りながら歩む「旅の途中(Via Media)」が聖公会神学だからだ。教会はその使命に忠実であろうとする時、そこに一致が現実化すると考えられる。私自身は、異なる者同士が一致するという意味以上に、神主導による一致において個々の多様性に気づかされる「一致における多様性」と解釈している。その意味で聖公会は困難な旅路を歩んでいる。

 というのは、先日、1400年続くカンタベリー大主教に初の女性主教が任命されたからだ。これを受けGAFCON(2008年エルサレム宣言を経て結成された聖公会保守派)は、1998年ランベス会議の人間の性に関する決議(1.10)を覆したと考え、全聖公会一致のための4機関(カンタベリー大主教、ランベス会議、首座主教会議、全聖公会中央協議会)の権威を拒否し、the Global Anglican Communionを組織すると声明を発表した。聖公会の中における経済的・政治的・歴史的・文化的・宗教的南北問題が、私たち人間の織りなす多様な「現実」がここにはある。

英国初の女性カンタベリー大主教誕生へ サラ・ムラリー主教が第106代に任命 2025年10月4日

 哲学者ジャック・デリダがいうように、さまざまな要素が複雑に絡みあい「現実」という「意味」が織物(ヴェール・シュライエル)のように生成される。それを剥ぎ取ることは可能なのか。歴史的・個人的な経験を覆い隠すヴェールであると同時に、そのヴェールを通してでしか語り得ないものが暗示されているのではないか。そのためには耳を傾け、キリスト教的解釈をなし、何よりも「神の助け」を祈り求めねばならない。今一度、祈るイエスの姿を深く観想していきたい。

與賀田光嗣(神戸国際大学付属高等学校チャプレン)
 よかた・こうし 1980年北海道生まれ。関西学院大学神学部、ウイリアムス神学館卒業。2010年司祭按手。神戸聖ミカエル教会、高知聖パウロ教会、立教英国学院チャプレンを経て現職。妻と1男1女の4人家族。

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