京都大学「キリスト教AI」を共同開発 教理問答を習熟 教会現場での活用に期待 2025年12月20日

 京都大学人と社会の未来研究院教授の熊谷誠慈氏と、株式会社テラバース(古屋俊和CEO)による研究開発グループは、プロテスタントの教理問答(カテキズム)を学習した対話型AI「プロテスタント教理問答ボット(通称・カテキズムボット)」の開発を発表した。これまで仏教対話AI「ブッダボット」シリーズを手がけてきた同グループが、キリスト教分野へと研究領域を広げる初の試み。

 カテキズムは、洗礼や堅信礼前の信仰教育などで用いられてきたキリスト教の教義を問答形式で学ぶ入門的な教材で、質疑応答を基本とする形式がチャットボットとの相性が良い点に着目したという。今回のボットでは、マルティン・ルターの『小教理問答』および『ウェストミンスター小教理問答』を主要な学習データとして採用。プロテスタント・ルター派と改革派の伝統に基づく教理解説を、日本語で平易に提供する。

 技術的には、チャットGPTの大規模言語モデルを応用し、聖書やカテキズムの原典を提示した上で、補足的な解説を生成する仕組みをとる。回答には必ず典拠となる文献を示しつつ、現代的な問いにも応答できる点が特徴。一方、生成AI特有の「ハルシネーション(誤情報生成)」の可能性について、今後は研究者によるデータのクロスチェック体制を強化するとしている。

 熊谷氏らは、本プロジェクトの意義について「宗教多様性を先端技術の領域に実装する試み」と位置づける。日本ではキリスト教人口は1%未満と少数派だが、世界では約3割を占める最大級の宗教であり、国際社会を理解するための基礎教養としての重要性は高い。カテキズムボットは、信者に限らず、キリスト教になじみの薄い人々にも開かれたツールとして、教会やミッションスクールでの活用も期待されている。

 今後は、ルターの『大教理問答』や『アウクスブルク信仰告白』、さらに改革派、カトリック、正教会の文書へと学習範囲を広げ、より重層的な「キリスト教AI」の構築を目指す計画。宗教とAIの接点をめぐっては倫理的・社会的課題も多いが、アドバイザーとして参画する芦名定道氏(関⻄学院⼤学客員教授、京都⼤学名誉教授)の助言も仰ぎつつ、伝統知とデジタル技術の新たな可能性を切り拓こうと模索する。

 開発リーダーとなった波勢邦生氏(株式会社テラバース、本紙研究員)に話を聞いた。

――なぜ、ルターの小教理とウェストミンスター文書を選んだのか?

波勢 教理問答書としてもシンプルなQ&A形式が学習データとして最適だったからです。ルター『エンキリディオン』は、先行研究が示してきたように父と子の語らいの中で、神について考え学ぶための問答です。またウエストミンスター諸文書は、17世紀の英語圏プロテスタントの信仰を、国家レベルで適用しようとした包括的な意図を持つもの。開発の出発点として、知名度、文献の意図、歴史背景を踏まえて、上掲2点を採用しました。

 当然、プロテスタントのみならずキリスト教の伝統にはカトリックなどにもカテキズム(教理問答)は存在していますし、その他にも重要な文献は事欠きません。順次、キリスト教の多様性を見据えながら学習データとしたいと考えています。

――キリスト教側も海外の方が受け入れられやすいのでは?

波勢 ブッダAIの実装実験は、すでにブータンで開始しています。例えば京都のコプト正教会の献堂式典の際、コプト教皇はiPadで式文を読んでおられました。そう考えると、エジプトやエチオピアの諸教会が導入してくれる可能性も想定できます。

――要請があれば導入とカスタマイズも可?

波勢 今回のカテキズムボットも、協力してくださる教団教派、諸教会、教職と聖職の皆様、またミッション・スクールなどがあれば、広く募りたいです。フィードバックを得て、より精度を高めていきたいと考えています。

――期待される教会での活用例、今後の展開は?

波勢 例えば8~12万社あるといわれる神社において、実際に動ける神主さんは約1万人だそうです。同様に、キリスト教も約8千カ所の教会において、聖職者、教職者の数は足りておらず、常時、誰かが教会にいられるわけでもありません。しかし、誰か教会を訪ねて来るかもしれない。そんな時、教会の掲示板に、このカテキズムボットの改良版が備えられていて、牧師の帰着時間、それに伴うキリスト教関連の質問や書籍の名前、聖書の箇所について簡単に答えてくれるなら、教会にとっても有益でしょう。

 著作権の問題などをクリアできるなら、古代教父らの原文と解釈、また聖書註解などを学習させて、ある聖書箇所の解釈の歴史を一覧化するなど、説教作成においても、手作業の時間を減らせるかもしれません。

 もちろん道具ですから、使い方によって善悪の結果が伴います。神の継続的創造の一部を担う者として良い管理者となる、善い使い方に責任をもっていくことが大切です。テック好きの神父、司祭、牧師の皆さんはぜひデータ取得のためにご協力ください。

*カテキズムボットの実証実験への参加希望は弊社まで。

プロテスタント教理問答ボット(カテキズムボット)の仕様画面

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