【映画評】 今ここにある戦闘 『ウォーフェア 戦地最前線』 2026年1月16日

 耳をつんざく轟音、脊髄を襲う激震。

 イラクの市街地へ潜伏した米特殊部隊の面々を襲う、想定外の危機を描く映像表現が問いかける。戦闘は今どこでくり広げられているのか、あなたが身をうずめる観客席の外は、すでに戦闘の延長部分と化してはないか。

 アレックス・ガーランドの快進撃が止まらない。分裂する米国社会を背景に、反乱軍に暗殺される米大統領を描いて同年のトランプ大統領銃撃を予言した前作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024年)からわずか1年、今度は米国の大義なき戦争が敢行されたイラクの街路を舞台に、孤立した米軍小隊の味わう戦闘の無惨をあまりにも迫真的に映して観る者を驚愕させた。

 ウクライナやガザの現状を踏まえ、米資本により戦争映画大作を撮る立場を得た自身がいま為すべきは、現代の戦場へ感動物語や英雄伝のフォーマットを載せることなどではなく、〝再現された戦闘状態〟へ観客を閉じ込めることだとガーランドは語る。この意図に照らすなら、アメリカ海軍特殊戦コマンドの元シールズ隊員レイ・メンドーサを共同監督に迎えたのも納得だろう。元海兵隊員でもある現アメリカ副大統領J・D・ヴァンスの著書『ヒルビリー・エレジー』が、アメリカの繁栄から取り残された白人たちを描いて日本でもベストセラーとなったことは記憶に新しい。本作『ウォーフェア 戦地最前線』に登場する兵士たちにはすべて実在モデルがおり、まさにJ・D・ヴァンスが記したような背景を感じさせる彼ら若者たちが辿る軌跡はあまりにも暗喩的だ。

 イラク市街地で孤立した小隊の惨劇を描く本作はこうして、ソマリア紛争を背景として現代戦争描写を一変させた画期作『ブラックホークダウン』(2001年)を全面更新し、アフガ二スタンを舞台にリアリティを貫徹させた近作『アウトポスト』(2020年)をも凌ぐに至る。第二次大戦時の飛行場跡にイラク・ラマディの街区を複製したセットの迫真性を、むき出しの音響体験が超えて来る様は圧巻だ。

 この1月16日には、アレックス・ガーランド監督作である本作と同時に、脚本と製作を担当する『28年後… 白骨の神殿』も日本同時公開となる。『28年後…』(2025年)の続編であり、2002年に公開されゾンビ映画の概念を変えさえしたヒット作『28日後…』以来このシリーズに携わるガーランド近年の足取りのみを根拠に、ハリウッドの華々しいフィルムメーカーというイメージや語りも流布されてすでに久しい。しかしかつて「アレックス・ガーランド」といえば、鋭くエッジの立ったエンタメ小説の書き手として知られていたことを抜きに、彼の資質を語ることはおよそ的外れにしかならない。

 たとえば、のちに盟友となるダニー・ボイルにより映画化されたガーランドのデビュー小説“The Beach”(邦訳『ビーチ』、1996年)は、タイの離島を主舞台にツーリズム資本主義を皮肉りつつ、原始共産的コミュニティの試みが崩壊する過程を綴り全世界で500万部刊行のベストセラーとなった。つづく長編小説“The Tesseract”(邦訳『四次元立方体』、1998年)では、マニラのホテルから始まる暴力と権力、欲望と絶望の物語を描き『ビーチ』を超える評価を得て英国BBCによりこちらも映画化された。三作目となる長編“The Coma”(邦訳『昏睡』、2004年)では都市生活と暴力の前作テーマから仮想世界と潜在意識へと陥没する展開をみせ、英国で舞台化された。

 これらにAIをテーマとするアレックス・ガーランド初監督作『エクス・マキナ』や、監督2作目以降の履歴を考え合わせたとき浮かび上がるのは、変化する社会環境の中で揺らぐ自己/非自己のあわいであり、その延長に惹起される共同体や国家の無常性だとまずは言えよう。そしてガーランドの創作履歴を俯瞰したとき、その足取りがイラク駐留米軍を題材とした新作映画へ結実してから一年をまたずして、実世界の米軍によりベネズエラ攻撃と同国大統領拘束が為されたことは驚愕に値する。近未来を占い、精確に的中させ続けるかのようなその歩みが次に何を銀幕へ映しだすのか、今から楽しみだ。

(ライター 藤本徹)

『ウォーフェア 戦地最前線』 Warfare
公式サイト:https://a24jp.com/films/warfare/
2026年1月16日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開。

*参考動画:アレックス・ガーランド公式監督インタビュー【戦争をリアルに記録していくことの意義】

【関連過去記事】

【映画評】 この現実を見据える確度 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 2024年10月3日

【映画評】 祈りのアフガン 『アウトポスト』 2021年3月15日

【本稿筆者による関連作品ポスト】

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