関西学院大 第60回神学セミナー「AI時代の教会」テーマに柳澤田実氏ら登壇 テクノロジーと信仰共同体の課題を多角的に考察 2026年2月19日

 関西学院大学神学部主催の第60回神学セミナー「AI時代の教会」が2月16日、同大学西宮上ケ原キャンパス(兵庫県西宮市)およびオンラインで開催され、卒業生らが参加した。コロナ禍以降、教会における技術導入が進む中、とりわけ生成AIの普及が礼拝や牧会に与える影響を主題に据えた。

 午前は、キリスト教思想を専門とする柳澤田実氏(同大准教授)と松谷信司氏(本紙編集長)による対談で幕を開け、メディア業界と神学の視点から急速に進化する生成AIと教会の関わりをめぐり、信仰・倫理・牧会の現場に及ぶ影響について率直な議論が交わされた。

 柳澤氏はまず、大学教育の現場でレポート課題が成り立たなくなりつつある現状を紹介。大規模言語モデル(LLM)の進化は専門家すら予測できない速度で進み、「AIはすでに社会に行き渡っている」と指摘した。とりわけ深刻なのは依存の問題。AI開発企業の調査では、ユーザーがAIを「マスター」「グル」と呼び、日常の判断や人間関係、金銭的決定に至るまで許可を求める傾向が確認されているという。自殺に至った事例も報告されており、「単なる道具以上の存在として神秘化する動きが出ている」と警鐘を鳴らした。

 テクノロジー専門誌『WIRED』でも、AIを霊的導き手のように扱うスピリチュアル・インフルエンサーの広がりが報じられている。柳澤氏は「企業側は依存を前提に設計している。問題はAIそのもの以上に、ユーザー側の態度だ」と強調した。また、自動化技術に日常的に触れる人ほど宗教的信念が弱まる傾向がある一方、医療従事者は逆に宗教性が強まるという米心理学者ジャクソンによる研究も紹介された。

 AIは「どのように(How)」には即答するが、「なぜ(Why)」には答えられない。にもかかわらず、人は利便性に慣れることで「なぜ」を問わなくなる。柳澤氏は「宗教が『なぜ』を問うことを放棄すれば、テクノロジーに取って代わられる」と述べ、実存的問いを保持することの重要性を訴えた。

 松谷氏は、慢性的な人手不足と多忙化の中で「教会での説教において、どこまでAI利用が許されるのか」という職業倫理の問題が浮上していると指摘。過去にも説教や教案の盗用問題はあった。聖書解釈自体が「集合知」の営みである以上、AIの利用を全面否定できるのかという問いもある。柳澤氏は「テキストの成立自体が集合知的であることは事実」と認めつつも、「人間の能力が衰退することへの危機感は持つべきだ」と応じた。

 議論は米シリコンバレーの教会事情にも及んだ。テック企業関係者に伝道する教会では、成功至上主義に限界を感じた人々がキリスト教へ回帰する動きもあるという。一方で、AI企業と軍事産業の結びつきは強まっている。軍事技術を通じて「短時間で作戦を終え犠牲を減らす」という論理を、キリスト教信仰と両立させる経営者もいる。柳澤氏は「福音派的ナショナリズムとは異なるが、暴力を否定しきらない神学的立場が存在することは重い問題だ」と述べた。

 対談の後半では、若者の自殺増加とSNSの影響を分析した『The Anxious Generation』にも言及。注意力の断片化やコミュニティの流動化が進み、「内省する力」が弱まっていると紹介した。柳澤氏は、人類学者ターニャ・ラーマンの議論を引きつつ、「祈りとは『考えることについて考える』メタ認知」と説明する。スマートフォンに没入する生活は、「今・ここ」に貼り付いた意識を強める。そこから一歩引き、自らの欲望や思考を神の前で問い直す営みこそ、教会が担うべき役割だとした。

 欧米で20代の洗礼増加も報告されている中、混乱の時代に生きる若者ほど、AIやSNSの危うさを直感している可能性もある。松谷氏は「リテラシーの乏しい中高年こそ危うい」と指摘しつつ、最終的に人は「何のために生きるのか」という問いに直面するのではないかと語った。

 対談に続くAIレクチャーでは同大神学部を卒業後、東京神学大学大学院を経てAIコンシェルジュとなった脇屋国継氏が、「生成AIと神学的人間理解」と題して問題提起。生成AIが文章作成や対話を高度にこなす現状を踏まえ、人間の固有性が揺さぶられていると指摘した上で、かつて人間特有とされた言語能力や創造性が機械によって模倣される中、価値の根拠を能力に求める発想は限界に直面していると語った。

 また、神学的人間理解は人間の価値を機能や成果ではなく、神との関係において捉えると強調。礼拝とは、人が自らを神の前に置き直し、「何者であるか」を受け取る営みであるとし、技術が進展する時代だからこそ、能力ではなく存在そのものに根差した人間理解を再確認する必要があると訴えた。

 午後は、日本聖公会、日本基督教団、キリスト教主義学校など各現場からの報告=写真=が行われ、牧会、病院チャプレン、教育現場での技術活用の実情が共有された。さらに、院長の中道基夫氏と韓国・監理教(メソジスト)神学大学のソ・ヨハン氏による神学対談が行われ、国際的視野から教会の応答を探った。

 最後に神学部長の岩野祐介氏らを交えたパネルディスカッションで議論を総括。技術革新の波を前に、教会が神学的省察と実践的判断を重ねつつ歩む必要性が確認された。

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