【書評】 『西郷隆盛と聖書』 守部喜雅
同社の人気シリーズ「聖書を読んだサムライたち」の最新版は、NHK大河ドラマ『西郷どん』の主役、西郷隆盛。
「西郷隆盛は聖書を読んでいた」「洗礼を受けていた」という前書きに、突飛なものを感じるが、読み進めると信憑性がある。著者は、教育課程で西郷に対し「征韓論者」「反動士族の巨魁」というイメージを刷り込まれていると訴える。
国の将来を憂いていた同郷の僧、月照と共に入水自殺を図り、結果奄美大島に流人として流された若き日など、第1章からパブリックなイメージとは異なる西郷の意外な姿が紹介されている。
西郷が明治政府の重鎮として、明治元年から5年間働いた時期にキリスト教解禁の令が施行された点にも注目。木戸孝允らにより引き継がれていたキリシタン弾圧に疑問を持ったのが、西郷と勝海舟だったと指摘する。さらに、勝は渡米時にサンフランシスコ教会の礼拝に出席した経験があり、西郷も以前から漢訳聖書を入手し熱心に読んでいた説があることを紹介。内村鑑三が33歳の時に外国に向け英文で書いた『代表的日本人』では、西郷についても章が割かれているという。
西郷の洗礼についても、明治5、6年ごろ横浜海岸教会の宣教師から受けたのではないかと推論。終章には、「西郷から聖書を教わった」子孫のインタビューも収録されている。
西郷をはじめ、内村鑑三、勝海舟など、国の将来を憂い取り組んだ人物たちが皆、キリスト教を学んでいたことの意味を改めて考える。
【本体1,200円+税】
【いのちのことば社】978-4-2640-3878-8