【書評】 『サーチライトと誘蛾灯』 櫻田智也

「第10回ミステリーズ!新人賞」を受賞した表題作を含む全5編のミステリーを収録した連作集。昆虫好きのとぼけた青年・魞沢(えりさわ)が、名推理でさまざまな難事件に挑む。
『蔭桔梗』で直木賞を受賞した推理作家、泡坂妻夫(あわさかつまお)の亜愛一郎(ああいいちろう)シリーズを意識したと明言している通り、軽快な筆致とユーモアに富んだ台詞の応酬が魅力。
とりわけ牧師の家族が抱える葛藤や、日本の教会事情も克明に描いた「アドベントの繭」は、キリスト教の信仰を持たない著者が書いたとは思えないほど秀逸で、その緻密な取材力とディティールへのこだわりには脱帽。単にモチーフを散りばめただけのオカルト小説に堕することなく、かつ一級の娯楽作品としても成立している。
キリスト教文学かくあるべし。
【本体1,500円+税】
【東京創元社】978-4-488-01799-6