【書評】 『一日の苦労は、その日だけで十分です』 三浦綾子

著者の没後20年を前に発行されたエッセイ集。一般紙や有名雑誌だけでなく地域PR誌や医療、宗教、茶道系機関誌など、さまざまな媒体に寄稿した文章を集めた。
寄稿した時期も40代から最晩年までと幅広いが、文章は前向きな明るさに貫かれ、一読した限りではいつごろ書かれたものか分からない。
闘病の日々、温かい思い出や苦い経験、結婚についてなど、自身の経験を語ることで弱っている人や、若い人たちへ励ましを送り続ける。
「近所の子供たち」と題するエッセイは、1965年の本紙(12月25日付)から収録。1年がかりで取り組んだ懸賞小説の締め切り間際に高熱を出し、恒例にしてきた近所の子たちを招くクリスマス会を中止にしようとしたところ、夫の光世さんに反対されたという逸話。結果、クリスマスも祝いつつ、どうにか原稿も大晦日に投函できた。デビュー作となる『氷点』の誕生秘話である。
【本体1,400円+税】
【小学館】978-4093886185