【書評】 『沈黙への道 沈黙からの道 遠藤周作を読む』 金承哲
「キリスト新聞」紙上での連載に2編を加えて単行本化。遠藤の代表作から短編までの24作を、作品の誕生順に紹介している。
「遠藤文学の世界は、その人生体験と切り離すことができないため、作品の誕生順に読むことで、遠藤の魂を追体験できる」と語る著者。
歴史、心理、ミステリー、ユーモアなどのジャンルは、純文学作品よりもはるかに多く、本書では可能な限り多様なジャンルの遠藤作品の紹介を試みたという。
『わたしが・棄てた・女』の解説では、主人公ミツが、御殿場の神山復生病院の看護婦だった井深八重をモデルとしたことだけでなく、遠藤がフランス留学中に出会い、将来を考えたが日本で病死した女性、フランソワーズの存在を紹介。同作を執筆中の遠藤が、フランソワーズについて思いを巡らせた可能性に想像が膨らむ。
『沈黙』の解説では、作品が誕生するきっかけを、「長崎で踏み絵を見た遠藤が、そこに脂性の人の脂のあとを発見し、人々の残す『痕跡』に伴う『痛み』に共鳴したため」だと紹介。「痛みを伴う痕跡は、わたし達を神に導く窓のようなもの」と語る。
さまざまな時代の遠藤の写真も収録されており、遠藤作品のファンも、未読の人も楽しめるつくりとなっている。東京と名古屋で「遠藤周作を読む会」を主宰する著者の、遠藤への熱い思いが感じられる。
【本体1,500+税】
【かんよう出版】978-4906902576