【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『カクレキリシタンの実像:日本人のキリスト教理解と受容』 宮崎賢太郎
『カクレキリシタンの実像:日本人のキリスト教理解と受容』(吉川弘文館、2014年)
本書は、明治以後のキリシタン信仰について客観的な資料の分析である。キリシタン信仰の「混成宗教的祖先崇拝」という表層の底に「フェティシズム的タタリ信仰」があることを明らかにした意欲的な試みだ。
ユネスコが2018年6月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を世界遺産に登録すると決定したことは記憶に新しい。江戸時代以降のキリスト教禁制下で信仰を守った「かくれキリシタン」が世界の注目を浴びた。カトリック司教協議会会長の髙見三明大司教は、「世界遺産と認められた教会はそのほんの一部ですが、キリシタンの繁栄と潜伏と復活の歴史を静かに証ししています」と語った。
本書によれば「日本宗教史のみならず、世界宗教史における東西交流の興味深い事例」としての「カクレの信仰」は伝承し変容し土着化して、今、消えつつある。例えば長崎県の生月島と平戸島では、元々「ロザリオの十五玄義」であったものが、いつのまにか「御札様」というおみくじに変容していた。
謎めいた秘境的なものとして語られがちな「キリシタン」である。しかし、学問的には、江戸時代、明治時代と区分して扱われ、研究も進んでいる。本書は、まず「カクレキリシタン」を定義し、その信仰の継承と組織について詳述。次に「オラショと行事」と題し、彼らの祈り・恒例行事・洗礼・葬儀を地域毎に調べていく。特筆すべきは行事でのオラショの内容や道具についての解明である。カクレキリシタン文化の保存・研究という意味でも重要だ。
また「その信仰と実像」というテーマで、カクレキリシタン信仰の仕組みと対象を「信仰の重層性」として考察する。カトリック信仰との明確な違いを浮き彫りにして「なぜキリスト教信徒数は増えないのか」という日本人のキリスト教理解と受容の謎に答える。
「迫害と殉教の悲しいロマンの物語としての日本キリスト教史ではなく、根強い日本の民衆の強靭な信仰の実像」に迫る。「世界遺産を読む」ために必要な1冊。
【本体2,300円+税】
【吉川弘文館】9784642081009