【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『沖縄の怖い話 メーヌカーの祟り』 小原 猛
『沖縄の怖い話 メーヌカーの祟り』(TOブックス、2016年)
なぜ本紙で「怪談本」を取り上げるのか。なぜなら、本書には牧師が登場するからである。「怪談話に牧師が登場するだなんて漫画じゃあるまいし……」と訝しく思う人もあるだろう。しかし事実は小説より奇なり。本書収録の43編中6編が米軍属と結婚した日本人女性が経験する「黒魔術」怪談であり、そこにユタや神ダーリ(沖縄のことばでいう神憑り)した牧師が出てくる。
著者・小原猛は、京都出身で沖縄在住。その筆致は、海岸で小さなサンゴを拾うように、沖縄の怪談や民俗事象を丹念に拾っている。とくに「沖縄の怪談」といえば、どうしても戦前と琉球時代のものが多くなるにも関わらず、渉猟と現地調査を欠かさないがゆえに、小原作品は、21世紀にも通用する現代的な作品が多い。
本書・前口上では、初対面のユタに両親の名前を言い当てられたことから、作家としての来歴が始まったことが明かされる。実は、このような話は枚挙に暇がない。
例えばキリスト教内部からも、友寄隆静『なぜユタを信じるか――その実証的研究』(月刊沖縄社、1981年) という本が出ている。沖縄出身、同志社神学部を出たクリスチャン、著者・友寄のユタに関する地道な聞き書き調査の記録である。小原による本書は、キリスト教の外から「沖縄のユタ」に関する事例を記したものと言えよう。
本書の他には『琉球怪談』『琉球奇譚』などのシリーズ、また『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』取材ルポなど多数。怪談師としての活躍、子ども向けの怪談など、その活躍も多彩である。
沖縄の怪談にはどこか滑稽さ、可笑しさが漂う。それは、どうしても人間を憎めない眼差しのようなもの、琉球を自覚する人々の固有性に連なる感性なのだろう。教会学校の夏キャンプのために一つ覚えていくと良いかもしれない、夏休み前にオススメの1冊。
【本体650円+税】
【TOブックス】978-4864724623