【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『オカルト・クロニクル』 松閣オルタ
『オカルト・クロニクル』(洋泉社、2018年)
本書は、著名な検証サイト「オカルト・クロニクル」の書籍化である。なぜ本紙が「懐疑と肯定のハザマで世界のオカルト事件をアーカイブし、研究するサイト」本を紹介するのか、と訝る方もあるかもしれない。
確かに本書が扱うテーマは、奇妙な事件・出来事・人物ばかりである。「ディアトロフ峠事件――ロシア史上最も不可解な謎の事件」「熊取町七名連続怪死事件――日本版『ツイン・ピークス』の謎」「科学が襲ってくる――フィラデルフィア実験の狂気」など、一見眉をしかめるようなタイトルが並ぶ。他にも、地震予知、ポルターガイスト、獣人ヒバゴンと、およそ教会で聖書を読む人々にはなじみのない名詞がズラリ。
しかし、本書掲載の二つの記事「セイラム魔女裁判――はたして、村に魔女は本当にいたのか……」「ファティマに降りた聖母――7万人の見た奇蹟」は、言うまでもなくキリスト教に関係している。
前者は17世紀アメリカの閉鎖的なピューリタンの村の実態を明らかにする。「どうしてお前は教会に通わなかったのか?という質問に対し、着て行く服がなかったから」という記述には思わず笑ってしまう。おもしろおかしい筆致の中で、教会や信仰の公共性が必然的に問われている。
後者は、今から百余年前の1917年10月13日、ポルトガルの出来事である。後々、カトリック教会を賑わせる「ファティマの聖母顕現とその預言」がテーマである。第一次世界大戦の最中の「マリアファニー」に世界は踊り、学術的検証から政治利用、陰謀論からスピリチュアルな牽強付会まで、膨大な量の言説が語られて来た。本書は、それらを平易に総括してみせる。
不明なものは不明とし、ツッコミどころには遠慮しない著者の姿勢は、21世紀に「奇蹟」を語るキリスト教への適切かつ穏当な現代人の感性である。「オカルト・クロニクル」、名前に戸惑わずに本書を開けば、軽妙な語り口で繰り広げられる、極上のエンターテイメントが読者を待っている。
【本体1,800円+税】
【洋泉社】9784800315434