【書評】 『主は偕にあり 田中遵聖説教集』 田中遵聖 著/神藏美子 解説

「アメンありがとうございます」「アメン勿体のうございます」。説教はひたすら感謝に終わる。田中遵聖にとって、もはや自分が救われるか否かなど眼中にないかのようだ。彼にとってはただ十字架との出会いが嬉しくてたまらないだけ、そして、その嬉しさを子どものような喜びをもって人々に伝えたいだけなのかもしれない。
このように救済にすら関心がなく、ただ神を賛美する姿は中世ドイツのエックハルトの説教を思わせる。だが神藏美子氏の解説によれば、そこに至るまでの道のりは容易ではなかった。田中遵聖こと田中種助は牧師になってから神を疑い始め、苦悶の日々を送った。あのシンプルきわまりないアメンに至るまでには壮絶な「ペヌエルの格闘」があったのだ。
これまで田中の説教集はアサ会が出した記念誌を読むしかなかったのだが、それは極めて入手困難であった。それがこのたび新教出版社から公刊されることによって、誰もがその説教に触れることができるようになったのである。先にも記したが、エックハルトにも相通ずる信仰を、おそらくエックハルトのことなど考えもしないままに貫くことになる田中の説教は、神学研究の上でも一読に値する。
また、冒頭のような言葉を繰り返す田中のスタイルは、どこか浄土系仏教の、ひたすら念仏を唱えて感謝する祈りの姿にも似ているところがある。エックハルト的なものと木喰的なものとが出会う信仰。田中の神学的な位置づけを、今後の研究成果に待ちたいところである。
ちなみに息子・田中小実昌の父との関係については、神藏氏が秀逸な解説を冒頭に記している。そこを読むためだけでも手にする価値のある1冊である。
【本体3,000円+税】
【新教出版社】978-4-400-51763-4