【既刊再読 改めて読みたいこの1冊】 『カトリック・ダイジェスト』

 約70年ほど前、1948年に出た『カトリック・ダイジェスト』クリスマス号を覚えている人はいるだろうか。米国カトリック信者向けの月刊誌である。現在も英語web版において無料で記事を読める。

 しかし、つい70年ほど前のクリスマス号の目次は、いささかキナくさい。「ギリシャ共産党の実情」「共産主義は宗教か」「フリーメイソンの起源」など、オカルト・マニアや陰謀論者が喜びそうなタイトルが居並ぶ。第二次世界大戦を経て、今度は世界が二つの超大国によって分断される時代へと向かう様子がうかがえる。

 「ペンシルヴェニア初のクリスマスのミサ」では、元ロシア貴族がその身分を投げうって司祭となり献身した話が掲載されている。当時のアメリカの時代精神がにじみ、国家間の思想戦と宗教が無関係ではいられないことの証左でもある。

 このような背景を踏まえるならば、表紙の売り文句「最も魅力ある国際的な家庭雑誌」に嘘偽りはない。当時、『カトリック・ダイジェスト』は、米国と英国のみならず、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、オランダで発行されていた。英語版は点字版まで用意していた。

 日本では東京小峰書店が『カトリック・ダイジェスト』発行を引き受けて、1948年から1953年までに、6巻12号を出版。ペテル・J・ヘルツォーク神父が編集長を務めた。ペテル神父は後に聖職を辞して日本国籍を取得、星井巌となった。遠藤周作が編集補助にあたり、彼の作品「影法師」はペテル神父をモデルにしたとも言われている。さらに日本語版「読者の声」投書は、時代を感じさせ、興味深い。

 「ソ連に抑留されていた私は、シベリヤ収容所の実相を発表する機会をもたないが、九月号『スターリン地獄』を読み、ソ連に現在残留している我々の同胞もこれと同じ境遇の中に生活していることを読者諸君にお報せしたい」

 時代の波間で「宗教とメディア」が交錯したことを示すクリスマスの1冊。教皇フランシスコの来日もあり、世界の目がカトリック教会に注がれる今、改めてその近現代史を振り返るためには必読である。

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【東京小峰書店】

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