【書評】 『日本のロータリークラブ創設者 米山梅吉ものがたり――奉仕の心で社会を拓く』 柴崎由紀
奉仕の心で社会を拓く
米山梅吉は日本ロータリークラブ創始者で、三井銀行、三井信託、三井報恩会の要職に就いた明治元年静岡県生まれの銀行家であった。本書は米山が他人のため何をなすべきか、社会に役立つことは何かをいつも考え、地位名声のためではなく自分の価値観に従って行動した人物であることを克明に記している。
評者が明治期キリスト教史に関心を向けた頃、古書店で彼の著書『幕末西洋文化と沼津兵校』(三省堂、1935年)を購入したことを思い出させた。米山の生涯は明治以来のキリスト教界の歴史の中でも稀有な存在と言えるであろう。
青雲の志を抱いて三島から上京した米山は、薩長閥を越えて実業界で展開することになる。そのきっかけは上京後、英語の必要さに気付き、東京英和学校(後の青山学院)への入学と、約8年間のアメリカ留学での信仰と実践を学び、国際関係において視野を広げたことに始まる。帰国後、財界人として日本の社会では突出した才能を発揮し、実業界を超えて教育界や福祉事業、農村救済に到るまで戦前の日本に欠けた分野の開拓者としても活動した。また晩年の勝海舟のもとにも通い、隣家のジャーナリスト・徳富蘇峰とも親しくしていた。多岐にわたる事業を目にした蘇峰は「米山氏の著作を見るたびに、彼は誤って実業家になったのではなかったか」とその力量を認めている。
米山と青山学院との結び付きは本多庸一、珍田捨巳、阿部義宗らのメソジスト教会につながり、弘前教会の出身の牧師たちとの交わりも続いた。特に、実業界の第一線を退いた後、青山学院に小学校を設置し、そこに校長役として教育に従事したことは注目される。
一読者として、実業と教育の連係に図らずも『プロテスタントの倫理と資本主義の精神』の典型を日本の風土の中で紹介したことは高く評価できる。特に若年層向けに平易な文体で紹介したことは前著『新渡戸稲造』と共に成功している。少年を終えた成人にも読んでもらいたい。
評者:太田愛人(日本基督教団隠退牧師)
【本体1,800円+税】
【銀の鈴社】978-4866180274