【書評】 『ぜひ、はるかによろしく』 是非ハルカ著

 「たくさんの人に読んでほしいのです。先生、書評書いて!」――いきなり言われて、ちょっとうろたえましたが、笑顔のジェヒさんに頼まれると、ついつい乗せられてしまいます。評者は神学大学の教師として金ジェヒ留学生を指導したことがあります。彼女の伝道への情熱と破天荒な発想にしばしば脱帽し、また底抜けの明るさに巻き込まれる経験をしました。この人は実に不思議な方です。

 是非ハルカさんこと、金ジェヒ先生は韓国人で日本基督教団足利東教会の副牧師です。お連れ合いは羽島健司牧師。どうしてジェヒ先生が「是非ハルカ」というペンネームにしたかというと、これが面白い。ジェヒ先生は日本では「羽島ジェヒ」ですが、「はじま」は韓国語で「やめて!」という否定語なのだそうです。そこで、「はじま」はやめにして、韓国語で「~しようか」を意味する「はるか」を用い、「ぜひ(=是非)ハルカ」にしたとのこと。そのジェヒ先生の処女作が本書『ぜひ、はるかによろしく』。語呂合わせで名前の否定性を肯定に転換させる書名の妙に、ジェヒ先生の人生観がリアルに浮かび上がります。

 本書を紹介し、お薦めするにあたり二つのことを書きたいと思います。まず、この本はゴスペルシンガーソングライター「是非ハルカ」の音楽エッセイだということ。ゴスペルソングの楽譜まで巻末に載せられている異色の本です。本書を読んで初めて知ったのですが、ジェヒさんはかつて夢見た「歌手」に挑戦し、40歳を過ぎてからシンガーソングライターとしてデビューし、韓国の大型スペシャルイベントに出演しました。看護師となり、神学校で学んで宣教師になり、牧師になっても夢を追いかける生き方は魅力的です。素人の評者に楽譜について云々できませんが、ジェヒさんの強烈な体験からあふれ出た信仰の言葉が歌詞ににじみ出ています。

 二つ目は、この音楽エッセイが日本と韓国をつなごうとする優しさにあふれ、また厳しい現実にも触れているということです。文化的な相違に気づかされるだけでなく、なぜ日本では福音が広がらないのか、なぜ教会に人が集まらないのか。その伝道の課題についてヒントが与えられます。日本人として、日本人キリスト者として、気づかない課題をジェヒさんは日本社会の「嫌韓」という負の現実に寄せて書いています。日本人の目には見えない、いや、日本人が目を背けている現実をさらりと優しく、しかし、建設的に指摘してくれます。異色の日本伝道論だとも言えます。

 最後にもう一つ、紹介したいこと。それは、底抜けに明るいジェヒさんが、たくさんの涙を流して、この本を書いたのだということです。韓国人宣教師、また牧師として伝道の困難に直面してきたというだけではありません。ご自身が牧師となって卵巣がんを患い、死の危機を乗り越えて、この本を執筆したのです。本書には、ジェヒさんが日本に来て、神学校でお連れ合いと出会い、女性牧師となり、お嬢さんを与えられた恵みの人生が綴られています。ジェヒさんの底抜けの明るさは、キリストの福音に出会い、その福音によって起こされた一つの奇跡ではないかとしみじみ思わされます。掛け値なしに元気が出て来る本です。皆さん、ジェヒ先生の『ぜひ、はるかによろしく』をぜひ、よろしく。(評者・小友聡=東京神学大学教授)

【本体1,700円+税】
【キリスト新聞社】978-4-87395-776-0

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