【書評】 『日本は「右傾化」したのか』 小熊英二、樋口 直人 編
「眼前の大きな政治現象の要因として人々の意識変化ばかりを想起してしまう習性がわれわれにあることや、政治現象の背景は本来複雑であることをあらかじめ知っておけば、軽忽(けいこつ)な日本人保守化/右傾化論に手を出さずに済むはずである」
日本は「右傾化」したのか──。本書のタイトルの右傾化には鍵括弧、すなわち留保がつけられている。日本の右傾化を憂える論調ではないということである。では、右傾化など一切起こってはいない、そんなものは錯覚にすぎないという楽観的な論調であるのかといえば、そうではない。
本書は、日本あるいは日本人はこうして右傾化したのかというような分かりやすい本ではない。さまざまな統計を駆使して、その数量的データに目を向け耳を傾けつつ、そこからうかがえる事実と、そのデータが示された当時騒がれたさまざまな「右傾化」論とを比較する。そのことを通して、それぞれの時代の「右傾化」論が必ずしも的を得たものではないこと、事実はより複雑で錯綜していることが理解できる。
著者それぞれにも政治的・思想的な立場があるだろう。しかし、それを直接に押し出すのではなく、数量的データの、鈍く曖昧な変化を丁寧に観察していく。分かりやすい「左派的、リベラルな」結論は出てこない。しかし、そもそも現実とはそれほど単純なものであろうか。本書が示す重層的な事実をどう解釈するのかは、読者たる我々が、自分の置かれたこの世界をどう受け止めるのかとリンクしているのである。
【2,200円(本体2,000円+税)】
【慶應義塾大学出版会】978-4766426946