【書評】 『全人医療とスピリチュアルケア 聖書に基づくキリスト教主義的理論とアプローチの手引き』 田頭真一
著者は関西学院大学神学部卒業後、欧米の神学大学に学び、日系人教会はじめ牧師を歴任・現任されていることに加え、沖縄県那覇市にあるオリブ山病院理事長を務められている。オリブ山病院は父親が創立され、キリスト教主義を固く掲げる病院である。
オリブ山病院は早くからホスピス病棟を設置、全人的医療(肉体的・精神的・社会的・霊的存在としての人間にトータルケアを提供する医療)に重点を置いて経営されている。本書では霊的(スピリチュアル)医療に軸心を置いて、キリスト教主義に基づく理論的・実践的ケアの展開が示されている。スピリチュアルケアを正しく定義し、キリスト教に基づく遂行に正面から取り組み、聖書の言葉と関わらせ、事例を紹介しながら読者を引き込んでいく切れ味ある著書となっている。タイトル副題に「手引き」と付されているが、深みある展開は手引きをはるかに超えた内容と言って過言ではない。
著者は、スピリチュアルケアと宗教的ケアを区分して理論的展開を深めている。本来スピリチュアルケアが扱う問題は、人生の意味、苦難の意味,罪責感、死後の命等が挙げられる。これらの問題は宗教的要素に深く関係しているが、心理的・社会的問題として扱われる範囲も含んでいる。ヒューマニズムに基づくスピリチュアルケア、あるいは無神論に基づくスピリチュアルケアも存在しうる。その意味で言えば、キリスト教主義によるスピリチュアルケアは、独自の信仰的・神学的立場に基づくものであって、唯一無二のケアであるということができる。上記のような、人間のたましいにとって根源的な問題に対する応答は、イエス・キリストの復活と救いによる他はないとする信念に基づくケアである。本書では、このような信念に基づくスピリチュアルケアの事例を紹介しつつ、その実践への促しに及んでいる。
医療従事者はもちろん、柏木哲夫氏の推薦文にもあるように、一般の人々にも読まれスピリチュアルな側面に対する重要性の理解につながってほしいと期待する。スピリチュアルな次元に思いを寄せることは、終末期における対応のみならず、取りも直さず自らが自らの人生をしっかりと豊かに歩むための基盤であるはずである。(評者・島田 恒=関西学院大学寄付講座客員講師)
【1,980円(本体1,800円+税)】
【いのちのことば社】978-4264042563