【雑誌紹介】 家族みんなで戦っていた… 『福音宣教』7月号
連載「アンジェラスの鐘 18――父娘対談(三)隠れた聖人」(将棋棋士、著書『だから私は、神を信じる』の父・加藤一二三と『<生きる意味>の教育――スピリチュアリテイを育むカトリック学校』の著者、娘・加藤美紀)。
「娘 シエナのカタリナの料理で思い出したけれども、パパが対局の時はママが特に念入りに準備をしてね。
父 そうそう。そう。
娘 明日が対局という日はちょっと家の空気が違ってたものね、ああ大事な日なんだなと子ども心にも感じて。ママがパパのズボンやワイシャツを全部プレスしたり、ハンカチも窓ガラスにピ~ンと貼ってシワがつかないようにしたり。対局前夜は必ずパパの好物のビフテキで。パパの元気が出るようにママがせっせとね。
父 僕、思うのね、やっぱり、簡単に言うとさ、六二年間、現役で戦い抜いたんだけども、対局の前の日は、特によりをかけてママが料理を作ってくれたよね。それから対局の当日はさ、いっぱい食べたよね。
娘 当日はもちろん、対局の前後もママは自分の予定は入れてなかったじゃない? ほら、旧約聖書で、イスラエルが戦っている間、モーセが手を上げて祈っていると優勢になるのに、手が下がってくると劣勢になるの。で、ヨシュアともう一人の若者がモーセの腕が落ちてこないように支えてたという場面。そのイメージで、とにかくパパが今戦っているからって、対局の夜はママと子どもたち四人で家の祭壇の前で、ロザリオから始めて、昔の黒い祈祷書でイエスのみ心の連祷とか諸聖人の連祷とかいろんなお祈りを唱え続けて。でも途中で居眠りしたり子どもだから時々ふざけたりするとね、ママが真剣に怒ることもあって。やっぱり家族みんなで戦っていた気がする。でもパパは昔からよく「必勝は祈らない」と言ってきたよね? あれはどういう意味なの?
父 ほら、リジューのテレジア様が『信頼と委託』を大事にしたでしょ? 自分がすべきことはしたうえで、神様が良いことをなしてくださると信じて神様に委ねるということ。必ず良い道が備えられていると安心するから全身全霊で戦えるんだよ。だから、パパは最善を尽くしたうえで『良い将棋がさせますように』といつも祈っていたわけ。最近、『計るは人、成すは神』という言葉が気に入っているんだけれど、人間の働きを実らせてくださるのは神様だからね。
娘 あとパパはよく『将棋は芸術だ』と言ってるじゃない? だから、将棋には感動があるって。
父 うんうん!
娘 家族とすれば、『勝った、負けた』という結果しかわからないけれど、パパは負けた将棋で悔しくても、対局の途中で精神が高揚してくるとか、新しい手筋を見つけるとか、こう探求の喜び、わくわくするような気持ちや感動があるわけじゃない? 苦しくてもそこに芸術のような味わいがあるでしょ?
父 そうそう。」
フォーラム 第1回「ハンス・キュンクにおけるキリスト教理解と諸宗教との関係」(藤本憲正=国際日本文化研究センター、機関研究員)など。
【660円(本体600円+税)】
【オリエンス宗教研究所】