【書評】 『ボクたちは軍国少年だった! 平和を希求するふたりの自伝』 深田未来生、木村利人

 教育現場に身を置く者として密かに抱く理想像がある。言葉だけでなく、存在や生き方で大切なことを醸し出す人だ。わたしにとって著者たちはそのような人である。

 京都の西陣で労働者と連帯しながら、長く同志社大学で実践的神学課題を追究し、牧会者を育成してきた深田未来生氏は、落語好きでユーモアがあり、沈黙で人を抱擁することもあれば、照れの裏返しの毒舌で励ましもする教師で牧師だ。一方、早稲田大学で教鞭をとり、恵泉女学園大学学長も務めた木村利人氏は、バイオエシックス(生命倫理)を牽引してきた国際的研究者であり、名の通り輝く笑顔で向き合う人や命の問題を照らし出す学者である(リヒトはドイツ語で光)。賀川豊彦とその同志である馬島僩に繋がりを持つ二人は、それぞれの現場で命の尊厳のために活動し、親交を深めてきた同志だ。

 本書前半は二人の自叙伝だが、読み終えて感じたことがある。それはユーモアと笑顔に富む二人にも戦争体験という暗い過去があり、また人生の苦悩と痛み、そしてなにより「出会い」が二人を創り上げたことだ。

 出会う相手は親や叔父に始まり、少年期の自由学園創立者や教師、進駐軍将校。青年期になると、米国での苦学時代の寮や早稲田奉仕園の仲間、戦争による憎悪から和解に至るフィリピンの青年やバイオエシックス探求の原点となるベトナムの学生。そして成熟期に出会う、美しい伝統産業の中で疲弊する労働者に、大学での同僚や学生たち。さらに人生のパートナーと子どもたち。この中には世界中に愛された歌「幸せなら手をたたこう」の誕生秘話も含まれる。

 著者たちが経験する出会いには悔いや痛みとして想起されるものもある。しかしイザヤ書(2:4)に「剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする」とあるように、一つひとつの出会いが二人を打ち、その人格を形作ってきたのだ。剣を愛する軍国少年は出会いを通して痛みを知り、共感を学び、視野を広げられて、命の喜びを分かち合う神の器へと練り上げられてきた。「自分はどうだろうか」と振り返りを与えてくれる自叙伝だ。

 本書後半は、戦争を体験し、世界に目を開いて命や共生を追求してきた著者からの平和と希望、そして連帯を呼びかけるメッセージであり、戦前回帰するような現代社会と閉塞する教会にとって貴重なものとなっている。

 著者を知る読者も知らない読者も、二人から神の働きの「同志」として平和創出に招かれている。なんと嬉しいことか。

(評者・佐原光児=桜美林大学准教授・チャプレン)

【新刊】『ボクたちは軍国少年だった! 平和を希求するふたりの自伝』深田未来生、木村利人 共著

【182頁・四六判・本体1,700円(税込1,870円)】
[キリスト新聞社]ISBN978-4-87395-797-5 C0016(日キ販)

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