【書評】 『彼女はなぜ、この国で 入管に奪われたいのちと尊厳』 和田浩明、毎日新聞入管難民問題取材班 著
毎日新聞有志記者を中心に立ち上がった「入管難民問題取材班」が、毎日新聞のウェブサイトの報道から生まれた記事や追加取材を1冊の本としてまとめた。
出入国在留管理局(通称入管)の外国人への対応は、人道的な観点から常に批判されている。2007年以降だけでも17人が死亡しており、うち5人は自殺である(第2章「支援者たちの思い」38頁)。日本に滞在する外国人にとっては切実な現実であり、これまで小さな声として指摘されながらも無視されてきたものがやっと注目されてきた。それは「共生社会」という言葉が注目されるようになったことの皮肉な結果でもある。
本書の特徴は、2021年にスリランカ人のウィシュマさんが収容中に亡くなったことを機に起こった、さまざまな反応や社会の変化を記事として取り上げていること。例えば、親族、支援者、弁護士などの視点はもちろん、若者、政治家、世界からの評価の視点なども含む。現在の入管問題への批判という一貫した姿勢はあるが、一方的な見方ではなく、多角的な視点から顕在化した入管問題を伝えようとしている。
たびたび言及される、支援者や活動家がクリスチャンであったり、教会の牧師であることも興味深い。実際的な現場の中で収容者に会いに行き、話を聞き、具体的な支援を異国人であれ、寄留者であれ、他者を愛するという信仰を持ってなされている方々がいることが伝わってくる。
昨今のウクライナとロシア戦争による難民問題も対岸の火事ではあり得ない。しかし、今年4月に日本政府はウクライナから来る人々を「難民」ではなく「避難民」と呼び、ウクライナ避難民の保護を掲げて入管法改正に踏み切ろうとする可能性もあった(第6章「政治家たちの動き」144頁)。入管法を改正するのか、改正するとしてもどのような過程を得るのかが論点となっている。入管法を考えることは日本が外国人とどう向き合っていくかを問うことでもある。
「外国人が日本の安全・安心を脅かしているか否かの判断は、現状ではまず入管に委ねられている。その判断の適正さは、果たして誰が保障するのか。入管の判断に対し、裁判所など第三者によるチェックが必要ではないのか。『治安維持』の発想は、日本人と外国人がつくる『共生社会』の現実と相いれるのか。ウィシュマさんを含む入管施設で亡くなった人たちを思い、また入管での苦しみを吐露する外国人の声を聞くにつけ、そう問いかけざるを得ない。」(第7章「入管の『使命感』――内部からの告発」172~173頁)。
昨年の通常国会で見送りになった入管法改正は、10月に召集される秋の臨時国会では再提出見送りになった(https://www.asahi.com/articles/ASQ9766YJQ97UTIL01Q.html)。
これは決して入管法改正がなくなったわけでもなく、入管問題が解決したわけでもない。今世界が揺れ動いているからこそ、日本国内における外国人への法制度、その現状、課題をしっかりと見極めなければならない。見送りになった入管法改正が、今後どのように動いていくかを注視したい。
【1,980円(本体1,800円+税)】
【大月書店】978-4272331093