【雑誌紹介】 救いを実感できない社会の中で 『カトリック生活』4月号
特集「カルト問題から見えてくるもの」。真宗大谷派僧侶の坂井祐円とサレジオ会司祭の阿部仲麻呂による対談「現代社会の宗教観――あなたは何を信じていますか」。
坂井が言う。「カルトというと日本では宗教的な団体ばかり思い浮かびますが、欧米でのカルトの定義は癒し系、健康セラピー系、能力開発系と多岐にわたります。若者たちのアニメやゲーム、アイドルに対する推し活も、のめり込み過ぎるとある種の洗脳に近く、課金もカルト宗教の献金と構造的には変わらなくなってしまいます。……新興宗教やカルトと言われる団体は、精神的な豊かさや生きていてよかったと思える瞬間を与えてくれるのかもしれません」
阿部が応じる。「実際、若者は宗教に興味がないと言いながら、新興宗教やカルト的なものには集まってきますよね。はまりたい気持ちって若者のほうがあるのかもしれません。求めてはいるけれど、それは教義ではなく、もっと具体的に希望や生きる力を感じられるものなのでしょう。……カルトは人間の心の底にある感情や欲求の、暴走の結果なのかもしれません」
坂井が「そもそも江戸幕府の檀家制度という宗教統制政策によってつくられた社会で、みんなと同じものを信じていれば安心なのだという、それが歴史の中で日本人に根づいてきた宗教感覚でしょう。でもこれは、徳川幕府による膨大な洗脳と言えるかもしれません」との見解を示すと、阿部も「そう考えるとある意味で日本はカルト国家だったと言えますね。自分が何を信じているかはわからないけれど、みんなで一緒に生きているから大丈夫、間違いはないという無責任な安心感は怖い」と答える。
「現代は実感としての救いのようなものを得にくい社会なのでしょう。多様な価値観の中で自分の考え方が絶対だということは難しい。だからこれが絶対と言われるとついていきたくなる」と坂井。これを受けて阿部が言う。「でも、本当の意味で人類が幸せになったら宗教組織は不要になるかもしれないですよ。組織的な宗教団体があるうちは問題が起きると思うので、キリスト教だって役目をはたして消えることができれば……。宗教組織がもはや必要のない世の中を目指すのが、人類の究極の目標なのかもしれません。こんなことを言ったら組織の責任者から怒られるかな」
【220円(本体200円+税)】
【ドン・ボスコ社】