【書評】 『ユダヤ人も異邦人もなく パウロ研究の新潮流』 山口希生

 「NPP(New Perspective on Paul)」と呼ばれるパウロ神学の捉え直しを試みた神学的潮流をまとめた1冊。神学者の間では決して新しい考えではないが、さまざまなアプローチからの研究が認知される中で、徐々に神学議論のみならず、教団・教派・教会レベル、信徒間でも注目を浴びるようになってきた。

 近年、キリスト教界で注目を集めてきた理由は、NPPがユダヤ教への理解を改めて深めるとともに、プロテスタント教会が救いの理解として重要視してきた「信仰義認」の教理に問題提起を投げかけているからであろう。

 著者はNPPに関し、広く認知されている特徴を以下の2点にまとめている。

 「神の恩寵による救済を説くキリスト教に対し、自力による救済、つまり律法の完全な遵守という条件を満たすことで救済を獲得しようとするユダヤ教、というステレオタイプなユダヤ教理解を退ける。ユダヤ教もまた神の先行的恩寵に基づく宗教であり、モーセ律法の遵守は救われた後の神の恵みへの応答である、というユダヤ教理解に立つ」

 「このようなユダヤ教理解に立ちつつ、パウロのユダヤ教批判、律法批判の真意を再考する。伝統的なパウロ理解、つまりパウロは自らの行いによって救済を得ようとするユダヤ教に対し、行いなしの信仰のみによる義認を掲げたのだという見方を批判的に検証する。パウロのモーセ律法に対する批判は、救いのために行いが不可欠だとするユダヤ教への危惧からではなく、律法をユダヤ人と異邦人の間の壁として用いようとするユダヤ教の民族主義的なあり方に向けられたものだと理解する」

 第1部「NPPの先駆者たち」では、F・C・バウル、アルベルト・シュヴァイツァー、W・D・デイヴィスなど、今日のNPP神学の先駆けとも言えるユダヤ教理解やパウロ研究を残した学者たちを紹介する。

 第2部「NPPを代表する研究者たち」では、NPP神学を理解する上で外すことのできないE・P・サンダース、J・D・G・ダン、リーチャード・ヘイズ、N・T・ライトらの主張を紹介。

 第3部「ポストNPPの旗手たち」では、センセーションを巻き起こしたNPPが後にどのような反論、議論、発展をしてきたのかについて、ダグラス・キャンベル、ジョン・バークレーらの学者たちの論を紹介する。

 著者はNPPの中心人物であるN・Tライトの下で神学博士号を取り、NPPに対して親和性を持っている。しかし、本書は学術的なレベルを維持しつつ、NPPについて基礎知識のない読者にも分かるよう丁寧に解説しており、NPPの是非を論じるよりも、その歴史や代表的な学者たちの主張を包括的にまとめている点にこそ意義がある。

 国内ではまだNPPについて包括的に取り扱った本は少なく、本書はNPPについて興味を抱く読者への良い入口となるだろう。

 なお、著者自身による詳しい紹介は以下のブログを参照。

https://1co1312.wordpress.com/2023/04/15/新刊紹介『ユダヤ人も異邦人もなく』(山口希生/

【2,475円(本体2,250円+税)】
【新教出版社】978-4400111856

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