【書評】 『語らいと祈り 信仰の12ステップに取り組んだ人々の物語』 松下景子

 本書はこれまでの私たちの宣教・伝道に何か決定的に欠けていた一つのプログラムを提供する。長い間、キリスト教界に身を置いた臨床医の目から見て、日本の伝道、特に伝道の対象となる人々の人間理解と、伝える側の自己理解と福音理解に、何か決定的な欠如があるように思われるのである。

 福音は福音として、人々に届かないだけではなく、私が『信仰による人間疎外』と呼ぶ現象と同じで、宣教が活動主義に陥ってしまっていると思われる。

 E・H・ピーターソンは『牧会者の神学』の中で、アメリカの牧師は「企業経営者の一群に変容してしまった。彼らが経営するのは教会という名の店である」と明言している。そしてこれらは、今日の日本のキリスト教会の低迷さを招いている。

 私が1989年、『信仰による人間疎外』なる本を著し、世に問うた時、実に多くの人々が「よくぞ書いてくれた」と感想を寄せてくださった。つまり人々は、何か、私たちの宣教姿勢に多くの問題があることに気づいていたのである。

 アメリカには牧師資格の必修科目として「臨床牧会」なるプログラムCPE(Clinical Psychological Education)がある。その人の対人関係を学び、自分の生育史を洗い直し、自己理解を深めるプログラムであるが、日本の神学校にはこういう実践的な研修プログラムが皆無のように思う。そのために、人々は教会に足を向けても3年もすれば消えてしまう。それは恐らく本当の人間的な関わり、人格的な出会いがないためである。

 主イエスは私たちを「迷える子羊」になぞらえ、牧師・伝道者に「私の羊を飼いなさい」と言われた。私が感じた現実は「飼う者のいない羊」の状態ではないだろうか。スイスの精神科医P・トルニエは『人生の四季』の中で、「キリスト教は人間を抑圧するものか、解放するものか」という項目を掲げ、「私どもの福音が律法主義的であるため、かえって人間の望ましい精神的な成長、発展が妨げられている」と明言している。人間側の心理的要因が福音を妨げているのである。

 著者は、私が50代半ばで10年にわたって奉職した、ルーテル学院大学付属人間成長カウンセリング研究所の優れた受講生であり、同労の牧師夫人たちと、これといった卒業後の教育プログラムがないことを憂い、長年事例研究会を計画されたため、私はその都度出かけ、スーパーバイザーとして協力した主にある同労者である。

 本書が、良き牧会のための指針を与えてくれるものであることを確信している。(評者・工藤信夫=精神科医、平安女学院大学名誉教授)

【1,650円(本体1,500円+税)】
【ヨベル】978-4909871916

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