【書評】 『愛の心を育む 大学チャペルでのキリスト教講話』 遠藤勝信

 オウム真理教やイスラム過激派によるテロ、旧統一教会問題などを通して、宗教に対する不安・警戒感は、近年確実に日本の社会に充満している。それを払拭するために宗教がもつ光と影を学ぶことは必須なはずだが、社会は寛容を無関心と取り違え、危ないモノには近づかず、無視するよう勧めているかのようだ。

 そういう時代だからこそ、学生たちが聖書の言葉に耳を傾けてくれる、そのこと自体が希望なのだと著者は確信をもって語る。微塵の揺らぎもないその確信は、「真剣勝負」を挑む(つまり学生の警戒感を解きほぐしながら短い時間で聖書のエッセンスを平易に解き明かし、彼らに人生の目的を真摯に問う)著者の、信仰や教育者としての姿勢から醸成されるものだろう。実際、学生は教員が語る嘘をすぐに見抜く。教員が心から真剣に語っていないことを、学生は心から真剣に受け取りはしない。そのことを著者は十分に心得ている。

 その「真剣勝負」を通して東京女子大学の学生たちに語られた30の講話は、聖書の言葉に対する洞察と、そこから開示される深い慰めと励ましに溢れている。もしこれらの講話が(キリスト教主義の学校教育にありがちな)人と人との愛の絆(Sacrifice and Service)を説くだけのものだったら、すなわち「横のS(人と人の関係)のみがことさらに強調され」るものだったら、これほど心に訴えかけるものにはならなかっただろう。著者が縦のS、すなわち神と人との愛の絆を何よりも前景化するからこそ、講話一つひとつが珠玉のメッセージとなっているのだ。

 縦糸と横糸が緊密に組み合って紡ぎ出されるこれらの講話に共通するのは「歴史に学び続け,歴史に聴き続けていく姿勢」である。その重要性が重ねて強調されるのは、私たちがまさにその歴史の中に生かされつつ、現代社会において、神と人に対する「愛の心を育む」よう促されているからに他ならない。闇が深まりつつある昨今、学生のみならず私たち自身も学ぶべきは、まさにこの著者の現実的な眼差しではないだろうか。

(評者・井出 新=慶應義塾大学文学部教授)

【1,210円(本体1,100円+税)】
【ヨベル】978-4909871701

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