【書評】 『宗教からアメリカ社会を知るための48章』 上坂 昇

 アメリカにおける宗教への理解、関心を深めたい読者に最適な入門書。過去から現在に至るまで、アメリカにおける宗教の表象が網羅された本書は、大きく七つのテーマをもとに分類され、全48章から成る。

Ⅰ 現代アメリカの宗教模様
Ⅱ アメリカ史の中の宗教
Ⅲ 宗教大国アメリカの諸相
Ⅳ 「戦争と平和」をめぐる宗教
Ⅴ 性的マイノリティーと宗教
Ⅵ 生と死をめぐる宗教
Ⅶ 日常生活に関わる宗教

 本書の意義はアメリカ宗教の特徴と直面している課題を概略的に捉えられることである。各章は2~4ページに収まっており、一つの章で1冊の本を書くことができるような内容が凝縮されている。アメリカの宗教分布、アメリカの歴史と宗教的影響、政治、教育、文化、科学、倫理、ジェンダー、環境、人権、戦争、平和と、アメリカという国が抱えるほぼすべてのテーマを宗教的観点(主にキリスト教)から解説する。

 具体的にはピューリタンの新大陸入植から、南北戦争、大覚醒時代、創造論対進化論、LGBTQを巡る言説、コロナワクチン問題、果ては2021年の連邦議会議事堂襲撃事件に至るまで、アメリカにおけるあらゆる出来事と宗教的関係を分析している。

 「宗教的多様性についても、多様な宗教組織が差別を受けることなく寛容な社会で共存でき、かつ教条的な聖書解釈だけではなく、時代の変化を取り入れた解釈が許容されることを期待したい。本書の狙いは『世界一の科学大国』アメリカを宗教的側面から歴史を見直し、他に類を見ないほど奇妙な国の成り立ちと国民を知ることである。」(本書「はじめに」より抜粋)。

 著者自身はクリスチャンではないが、在日アメリカ大使館での働きを経て、アメリカ研究を専門にするようになったとある。信仰を持たない視点から、この奇妙かつパワフルな国アメリカとその宗教的影響を言語化し、説明する。

 例えば、キリスト教を背景に各章で取り上げられる論点、分断、課題を取り巻く出来事に対して、賛成・反対、双方の引用聖句、またそれらの解釈をも紹介している点は読者にとって有益であろう。信仰を持たない人々にとってはアメリカ社会を揺り動かし、分断する論点の、そもそも前提となる価値観が不明瞭なことが多い。アメリカと宗教の関係を分析する良書は数あるが、そもそもの前提となる宗教観を丁寧に説明している本は案外多くない。

 すでにアメリカ宗教研究に親しみのある読者にとっては、概略的な内容なので少し物足りない部分もあるかもしれないが、アメリカと宗教、アメリカのキリスト教、政治と宗教などのテーマに少しでも関心のある読者にとっては最適な入門書になるに違いない。

【2,200円(本体2,000円+税)】
【明石書店】978-4750355412

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