【書評】 『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』 見坊行徳

 辞典から消えた、いわば「死語」をコレクションした辞典。著者は、三省堂国語辞典の初代編集主幹・見坊豪紀の孫で、辞典マニアの見坊行徳氏。歴代の『三省堂国語辞典』とその前身『明解国語辞典』から削除された言葉のうち1000項目をピックアップし、解説とともに紹介。使われなくなったことばから世相の移り変わりが見えてくる。

 現代語を対象とする小型国語辞書には、「今」の社会に広まり、かつ定着したと判断されたことばが採録される。そのため「今」から外れれば、改訂時に削除される。改訂では1千語以上の削除を行うことも珍しくないという。ただし、辞書から「消えた」ことばの事情はさまざまで、時の流れで忘れ去られた語もあれば、制度の変更により消滅した用語、需要が減って存在感の薄れていった語などがある。

 「キーパンチャー」「着うた」「ファミコン」「エムディー(MD)」などが、今では使われなくなったものの代表格だろう。流行語の範疇に入る「こギャル」「地味婚」「ながら族」も納得がいく。一方で、聖書やキリスト教に関する語も削除対象となっているのは興味深い。

エスさま[エス様](名)イエス(キリスト)をうやまっていうことば。イエス様。

ソドム(名)[Sodom]〔宗〕旧約聖書に出てくる都市の名。罪悪と男色(ダンショク)がはびこり、エホバの神にほろぽされた。

にゅうこう[乳香](名)ニュウコウ〔=アラビア南部などにはえる大木〕に、乳首(チクビ)の形につく、やにのようなもの。焼くといいにおいがする。

 欄外の補足によれば、乳香は第五版(2001年)に削除された。キリストに東方の三賢人が捧げた「黄金・乳香・没薬」から、乳香だけが脱落したようだ。

 他方、法律・制度の変更、あるいは学的発展により消えた語もある。 

きんちさん[禁治産](名)〔法〕つねに心神喪失(シンシンソウシツ)の状態にある者が、自分で財産を管理したり処分する力のない者として、裁判所の決定で後見(コウケン)人をつけられること。「―者」(欄外補足:第五版(2001年)。2000年に導入された成年後見制度の、元の制度)

しのうこうしょう[士農工商] (名)〔=武士・農民・職人・商人〕江戸(エド)時代の封建(ホウケン)社会を形づくる、すべての階級の人。(欄外補足:第八版(2022年)。近年、歴史研究が進んで教科書に記述されなくなっている。「四民」も同時に削除)

スターリング(名)[sterling]〔経〕イギリスの、純銀の正貨。ポンド。「―地域」(欄外補足:第二版(1974年)。用例「スターリング地域」はかつてイギリス連邦諸国が該当したが、1972年からイギリスとアイルランドのみに)

  巻末には版別の削除項目(抄)を掲載。懐かしいことばもあれば、以前は日常的に使われていた差別的なことばも並んでいる。いつどんなことばが削除されたのかを俯瞰することで、時代の推移をうかがえると同時に、いつの世もことばが社会を映し出す鏡であったことが再確認できる。

【2,090円(本体1,900円+税)】
【三省堂】978-4385366241

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