【書評】 『使徒信条の歴史』 本城仰太

 毎週礼拝で唱える使徒信条。その文言に込められた信仰や意味を聞くことはあっても、歴史的に、いつ作られ、どのような展開があって今につながっているかを知る機会は案外少ない。「古代ローマで成立したキリスト教の最も伝統ある信条」であることは知っているものの、どうしてローマなのか、なぜ「使徒」の名が冠せられているのか、どういう経緯で正統性が保障されるに至ったのかなど、一歩踏み込んで問われると答えに窮する。著者によれば、日本での使徒信条成立史研究は、外国と比べて少なくとも半世紀は遅れているという。

 古代ローマ時代、信仰を伝えていくための「信仰の基準」が必要になったが、当初は口伝という形で伝えられていた。しかし、4世紀になると書かれるようになる。そのきっかけはキリスト教公認。大幅に増加した受洗希望者に対応するため、信条を効率よく伝達する必要が生じた。また地域的な広がりに伴い、各地でさまざまな神学的立場が表明されるようになったため、何が正統であるかを決めなければならなくなったのだ。「信仰の基準」の制定は、ニカイア公会議とニカイア信条が嚆矢である。

 「三二五年にニカイア公会議が開かれ、『(原)ニカイア信条』が採択され、アレイオス派は斥けられました。これでめでたく〔問題が〕解決したかと言えば、まったくそうではありませんでした。ニカイア公会議後、アレイオス派は巻き返しを図り、時には主流派の立場にも立ちました。論争はなおも続いていったのです。

 ここではその詳細を省略しますが、三八一年、今度はローマ帝国の首都であるコンスタンティノポリス(今のトルコのイスタンブール、ローマから首都が移動していました)にて公会議が再度開かれ、『ニカイア・コンスタンティノポリス信条』が採択されました。……

 三二五年の『(原)ニカイア信条』を受け継ぎましたので、『ニカイア・コンスタンティノポリス信条』と呼ばれています。今ではこちらの三八一年の信条の方を『ニカイア信条』と呼んでいる場合が多いと思います。礼拝で『ニカイア信条』を告白している教会もあると思いますが、その場合はこちらの三八一年の『ニカイア・コンスタンティノポリス信条』をたいていの場合は告白しているでしょう」(第2章 信条の広がり)

 4世紀以降、ローマの地域信条である古ローマ信条(「R」と呼ぶ)が登場し、それを参照しながら各地で地域信条が作られていく。その中で、今の使徒信条(「T」と呼ばれる)がガリアで発展し、ガリア・ゲルマンで広がる。9世紀にカール大帝による典礼統一の動きが起こり、使徒信条が統一化され、西方教会全体で用いられるようになった。その後16世紀になると宗教改革が起こるが、ルター、カルヴァンといった宗教改革者たちは使徒信条を重視した。

 「改革者たちは、自分たちの活動が決して過去と切り離された新しい教会ではないことを示す必要がありました。そのために自分たちの教会が、古代教会や使徒の時代の教会と結びついていることを積極的に主張する必要があったのです。自分たちの教会は、中世のカトリック教会のあり方を否定するが、古代教会、そして使徒たちの教会に結びついている、と。その主張をしていくために、使徒信条を重んじる結果となったのです。つまり、使徒信条は古代教会とプロテスタント教会の橋渡しをするものなのです。使徒信条を告白しているからこそ、私たちは古代の教会と、そして使徒たちの信仰との連続性があると言えるのです」(第5章 宗教改革期の信条)

 興味深いのは、17世紀の日本のキリシタンたちにも使徒信条が「使徒信経」として伝えられていたことだ。教理問答書「ドチリイナ・キリシタン」では、使徒信条の文言を少しずつ区切りながら師から弟子へと解説されている。当時のヨーロッパでも使徒信条が重んじられていたが、日本においてもキリシタンの信仰教育に使徒信条が活用されていた。

 第6章では、明治以降の日本で使徒信条がどのように受容されていったかをふり返る。1890年の「日本基督教会信仰の告白」の中に使徒信条が採用されている。しかし当時、使徒信条を「簡易信条」と呼んだところに問題があったのではないかと著者は指摘する。「日本基督教会信仰の告白」や使徒信条が内実化したとは言い難い状況のまま、戦時下の日本基督教団の時代へと突入する。

 「一九四一年に日本基督教団が成立した当初、教団は信仰告白を持ちませんでした。このあたりのことは本書では詳述しませんが、信仰告白のいわば代わりとなったのが『教義ノ大要』というものです」

 戦後、1954年に日本基督教団は「日本基督教団信仰告白」を制定するが、いわゆる「戦責告白」問題などさまざまな課題が持ち上がり、教団は混乱の時代を迎える。だが、混乱の過程で、改めて信仰告白の大切さが認識された。そして、礼拝に「教団信仰告白」や使徒信条を導入し、告白するという実践が多くの教会でなされるようになった。本書では、その例として、三つの教会の事例を紹介する。

 「この三教会だけの実例をもって直ちに一般化することはできないかもしれませんが、教団の教会で礼拝の中で使徒信条や教団信仰告白が唱えられるようになったのは、教団の信仰的な混乱が要因となったのは間違いないでしょう。一九五四年に教団信仰告白を制定したものの、教団信仰告白や使徒信条を礼拝の中で告白するといった実践にはほとんど結びついておらず、教団の混乱が起こった後に遅まきながら、礼拝での告白をし始めたのが実情でしょう。換言すれば、教団信仰告白が制定されたことによって、日本基督教団は信仰告白を持つ教会にはなりましたが、その信仰告白を内実化させた教会形成が追いついていなかった、と評することができるでしょう」(第6章 日本における信条)

 普段、何げなく礼拝で唱えている使徒信条がどのようなルーツを持ち、なぜ今、諸教会で唱えられているかを知ることで、2000年の歴史を持つ信条の重みと深みが感じられてくるはずだ。

【1,980円(本体1,800円+税)】
【教文館】978-4764261686

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