【書評】 『戦争と平和主義 エキュメニズムが目指すところ』 富坂キリスト教センター 編

 富坂キリスト教センター(岡田仁総主事)の「兵役拒否・平和主義・エキュメニズム」研究会が、2019〜22年の3年間にわたる共同研究の成果をまとめた。

 それぞれの研究者が専門性は異なるものの、本書の標題を共通テーマとしつつ、各自の専門領域から戦争とキリスト教について考察。本書を貫く大きな危機感の一つは、2022年2月以降のロシアのウクライナ侵攻である。過去から学び、現在の状況を分析し、将来に向けて何を問いかけ、導き出せるのか。専門性や内容がそれぞれに異なりながらも、平和を希求する研究者たちの声が聞こえてくる。

 本書の構成は以下の通り。

1 キリスト教における戦争と平和主義

 怒りと報復から和解へ……平和主義への道程〈石田 学〉

 キリスト教平和主義の論点……アナバプティズムの視点から〈矢口洋生〉

 エキュメニズムと平和主義〈神田健次〉

2 太平洋戦争と平和主義

 クリスチャン林市造・本川讓治の神風特攻と信仰〈山口陽一〉

 兵役から逃れるとはー国家による身体の収奪への拒否〈佐々木陽子〉

 日本の民主化定着へのアメリカの試み〈原 真由美〉

3 現代における戦争と平和

「反ミリタリズム・コンセンサス」の終焉?―「時代の転換」のドイツ〈木戸衛一〉

 北欧における良心的兵役拒否の歴史と現状〈クリスチャン・モリモト・ヘアマンセン〉

 戦争の荷担者は誰かーハイブリッド戦争時代の平和への問い〈中西久枝〉

 1部では、聖書における暴力や報復に関する記述をどう受け取るのか。歴史的平和教会としてキリスト教平和主義を貫いてきたアナバプティズムの思想と実践。世界教会協議会(WCC)がエキュメニカル運動の中で、どのように平和主義に取り組んできたのかを扱う。

 2部では、太平洋戦争で殉死したクリスチャン青年たちの葛藤と信仰の歩み。戦時において国家の資源として管理される、生命の尊さへの抵抗としてなされてきた兵役逃れの歴史。アメリカからの宣教師による日本神道と日本人の研究が、戦後のGHQから発せられた「神道指令」に与えた影響への分析がなされている。

 3部では、ドイツの戦後の歩みの変化や世論を分析しながら、湾岸戦争以降、特にロシアの軍事的侵攻を契機に、平和主義から軍事的支援、積極的軍事介入へと傾斜していく様子。北欧における良心的兵役拒否の歴史と、現在の北欧諸国での理解や法律の違いなどの比較から、教会がどのように北欧各国の軍備補強を捉えているかについて。

 かつてのユーゴスラヴィア崩壊後の内戦、9・11以降の対テロ戦争以降、現代の戦争が政治戦争の延長戦、サイバー戦やAIを駆使した自律型ドローン戦が前提になるハイブリッド戦争とその荷担者は誰なのかという新たな戦争の局面についての考察がなされている。

 本書は聖書学、歴史学、キリスト教平和主義、政治学など、専門領域の異なる10人余の執筆者によって構成されている。広範囲であるがゆえに、各発題に対する応答や深化が不十分な面は否めないが、現在のロシアによるウクライナ侵攻の現状とキリスト教平和主義を考える上で必読の書であろう。

 本書出版以降、ロシア・ウクライナの紛争が止むどころか、新たにイスラエルとパレスチナ(ハマス)間での紛争が勃発した。「兵役拒否・平和主義・エキュメニズム」研究会からも、新たな応答を期待したい。

【2,200円(本体2,000円+税)】
【いのちのことば社】978-4264044154

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