【書評】 『ヘイトをのりこえる教室 ともに生きるためのレッスン』 風巻 浩、金 迅野

 「『差別はいけません』ということは、学校でさんざん言われるし、そのことを知らない人はいないだろう。問題は、それでも差別がなくならないことを、どう考えるかということだと思う」(3時間目「ヘイトは何を壊してしまうか」50頁)

 グローバル化する現代社会においては、多様性、多文化共生、個性の尊重、重層的な社会構成や、文化、人々が前提のように語られるが、一方で偏見、ヘイトスピーチ、差別、いじめ、排除が、時には目に見えないかたちで、時には目を覆いたくなるほど露骨で暴力的に、個人的な感情や公的な社会システムの中に現存しているのも事実である。

 本書は私たち同じ人間がともに生きるために、この世界のヘイトをどのように乗り越えていけるのか。私には何ができるのかを問いかける。著者は長らく高校の社会科教師として働き、今は大学やさまざまな現場で多文化共生の活動を展開する風巻浩と、在日大韓基督教会の牧師でもあり、多文化共生論と人権教育を専門とする金迅野(キム・シンヤ)の両氏。高校生向けの講演をベースにしており、平易な言葉で、読者に問いかけ、考える余白を与えながら進んでいく内容となっている。両氏のこれまでの経験や、在日コリアンやミックスルーツを持つ人たちの証言、ニュースや出来事を紹介しながら、多文化共生論や、ヘイトの問題を考える上で必要な基礎知識が凝縮されており、中高生から大人まで、ともに生きることを考えるための入門書として用いられることが期待される。

  「『国籍』や『出身地』をroots(ルーツ=自分の根っこ、存在の源)として、人を固定的に捉えてしまうより、その人がどんなものを背負って『いま、ここ』に至ったのか、そのroutes(生の道のり、どのようにここまで歩んできたのか)を大事にしたいと思う」(6時間目「『入』の現在と『出』での歴史」127頁)。

 人間を認識する視点を国や出身、見た目や言葉に留まらず、今私と出会うまでどのように生きて、歩んできたのか。その人の存在に興味を持つ。人と人とが出会っていく当たり前のプロセスを何よりも大事にしたいと感じさせられる。

 「『ともに生きる』と言葉で言うのは簡単だ。だけど、痛い目にあっている人と、具体的に、いま、自分が息をしているこのときに、『ともに生きる』ことをからだで示すのは、簡単なことではない……ぞっとするような『コトバ』が飛び交うような社会では特に……」(9時間目「『ともに生きる』というけれど」173頁)

 共生社会、みんながともに生きる社会。言うのは容易だが、ともに生きる相手は誰なのか。私が許容できる、私が迷惑を被らない、そんな都合のいい「ともに生きる」相手を勝手に想像していないだろうか。安全な場所からさまざまな媒体を通して、言葉や思いを発信する時代。一方で目の前の人に、その現実に対しては何も言えなくなっていないだろうか。

 ヘイトの存在する世界で私たちはどう押し流されず、加担せず、時に失敗や後悔をしながらも自分の弱さに向き合うことができるのか。同時に、積極的にヘイトとして吐き出す人たちをどう捉えるべきか。ヘイトに対峙する姿勢を堅持しつつ、その中に身を投じる人々の深層心理をも見つめ続ける。その糸口をつかむための手がかりになることを願う。

【1,870円(本体1,700円+税)】
【大月書店】978-4272331123

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