【書評】 『「箴言」の読み方 命に至る人生の舵取り』 トレンパー・ロングマン 著/楠 望 訳

 知恵文学研究において最も活躍する一人、トレンパー・ロングマンが著した箴言の聖書解釈に関する神学書である。箴言に書かれてた「知恵」の現代的意義を明確に示し、その生き方を解説する。

 三部構成の第一部では「『箴言』を理解するために」との題で、箴言を読む意義や、書かれた目的、読み方における妥当性について触れられている。例えば第5章では、「箴言はいかなる場合においても真実か」との問いを挙げ、一見矛盾しているような箇所を取り上げる。

 「愚かな者にはその無知に合わせて受け答えするな。あなたがその人に似た者とならないために。愚かな者にはその無知に合わせて受け答えせよ」(箴言26章4、5節=聖書協会共同訳)。このような矛盾に見える点において、時代背景や文法的な役割、著者の視点などを用いて説明し、箴言の妥当性は時宜に適うところにかかっていると結論づける。

 第二部は「文脈の中で『箴言』を読む」とし、同じ知恵文学とされるヨブ記やコヘレトの言葉との比較、創世記における知恵との比較、イエスキリストとの関係性について、聖書全体が語る「知恵」の一貫性と豊かさについて解説。

 続く第三部は「『箴言』のテーマをたどる」。箴言に書かれているお金、正しい女、正しい言葉について言及されている。

 本書を通し、箴言で重要な読み方が見えてくる。その一つは、箴言は古代に編纂された書であり、現代を生きる私たちはそれらの言葉を機械的に適用すべきではないという点である。「箴言の教えや見解は一般的に真理であるが、賢い人はその箴言の妥当性を見極める前に、その言葉を誰に当てはめ、どの状況に適用しようとしているかを考慮しなければならない」

 著者は、箴言は一義的に当時の若い男性に向けて書かれているとする。そのため、男性が主語になっており、「正しい女」か「愚かな女」を選ぶ書き方になっているという。仮にこの視点を考慮せず、機械的に適用するならば、男性が女性よりも優れているという短絡的な結論に陥る。

 現代社会は非常に複雑である。「多様化」が加速度的に広がり、細分化され続ける社会構造に人間自身、追いついていない。しかし、そのような多様性の中にあって、人生の舵取りが定めづらい社会だからこそ、「神の知恵」に立ち返る必要がある。「箴言の教える通り、良い生き方、賢い生き方とは、被造物と調和した生き方なのである」

 知恵のある人は、知恵の根源である神、そしてその知恵を用いて万物を創造した神の被造物として、調和を目指す。そのような調和の取れた社会の姿と、自らの人生の舵取りについて深く考察するよう導かれていく。本書を読み終える時、読者は決して短絡的にならない箴言の読み方を身につけることができる。そして、複雑な現代社会に対して「神の知恵」を模索し続け、適用させるという知恵のある人の命の舵取りのヒントを得ることができる。

 翻訳に携わった老松望氏は、本書を次のように振り返る。

 「コヘレトは言う。『一人より二人のほうが幸せだ。共に労苦すれば、彼らには幸せな報いがある。』(コヘ4:9)と…。

 振り返ってみると、本書の翻訳作業は、まさにこのコヘレトの精神に則ってなされていた。始まりは、人知れずなされていた私的な翻訳勉強会だった。しかし、その交わりの中で生み出されたものが、人と人を繋いでいった。荒削りの原稿は、誠実な編集者の手によって練られ、そしてそれが日本を代表する旧約学者の手に渡った。小友師の解説付きのこの邦訳本は、原書では味わえない深みを得ることとなった。そんな一冊だからこそ、本書は孤独にではなく、共同体の中で読まれるべきではないだろうか。そのことが、箴言の示す創造の秩序にかなうものではないかと思う」

【2,090円(本体1,900円+税)】
【あめんどう】978-4900677456

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