【書評】 『宗教とデザイン』 松田行正

 建築、美術、出版など、宗教とデザインは切っても切れない関係にある。本書は、「宗教における表現とは何か」をテーマに、グラフィックデザイナーである著者が自らの広範囲におよぶ知識を駆使して縦横無尽に語り尽くす1冊。〝デザインの歴史探偵〟を自称する著者が、さまざまな切り口から知的探求の旅にいざなう。

 「まずはじめに、本書の中心となる三大宗教といわれるキリスト教、イスラム教、仏教の宗教的キャッチフレーズを大胆にも示してみる。キリスト教は『普遍性』、イスラム教は『絶対性』、仏教は『安定性』なのではないだろうか。……

 本章では、この『普遍性』『絶対性』『安定性』という三つの発想をベースに、宗教が描いてきた世界をデザインという観点から読み解いてみたいとおもう」(「はじめに」)

 大きく「世界のデザイン」「布教のデザイン」「祈りのデザイン」に分けて論じていくが、随所でデザイナーならではの視点が光る。

 「〔日本では〕どこに中心がきてもよい点景画と、中心は空白であるべきという発想、中心よりも周縁を重視して目を向ける視点などが結びついて、中心を完全にはずした表現が登場する。その代表的な例が長谷川等伯〈松林図屏風〉(一六世紀末)の水墨画だ。

 折りたたまれることが前提となっている屏風では、逆に、中心に絵を描くと左右に分かれて切れてしまう。本のレイアウトでも中心に画像がくると左右に分かれて見づらくなる。……

 このような前提があったとしても、等伯の中心をはずすレイアウトは見事である。木と木の間の距離感が絶妙なので、奥行きが感じられ、余情が醸しだされる。つまり、中心でないところに描かれた対象に、中心の空白が引き寄せられていく。これが『余白』感につながる。描かれた対象は描かれたところだけでなく、中心も含めた周囲を巻き込むような感覚である。まさに、『中心をはずす』発想こそ、『日本のシンプル』といわれる『余白の美』のルーツのひとつといえる。……

 白紙も模様のひとつだから想像力で補えと。空白は単なる空白ではない模様なんだ、というすばらしい示唆である。中心の空白はたまたまできた空きではなく、そこにもさまざまなおもいをいたすことができる、ということで、この『中心をはずす』発想を支えている」(「世界のデザイン」)

 キリスト教の歴史とデザイン(形、文字、色、素材)についても独自の見解を元に読み解いていく。

 「アルファベット二三文字が成立したのはBC一世紀ごろだが、残りの『J・U・W』の成立はかなり遅い。……

 イタリアの高級宝飾店ブルガリが 『BVLGARI』と表記するのは、小文字も『U』 もなかったカロリング・ルネサンス以前の時代のイメージをこめることで、老舗感をだそうとしたため。

 そして、注目の『J』の成り立ちである。かつてエジプトのヒエログリフでは、文中の王や神の名全体を囲んで強調した。似たような文中での強調を、キリスト教の聖書を写字するときにおこなった。一五世紀あたりから、修道士がはじめ、徐々に広まっていったとおもわれる。

 それは、聖書のなかの『イエス(イエスス=Jesus)』、つまり『キリスト教の神イエス』を目立たせようとして、『I』の下端を左に曲げるというもの。イタリア、シエナの聖ベルナルディーノがはじめたとされている。これが『J』に発展した。ここから英語の『Jesus(ジーザス)』が派生している。……

 この『J』の誕生以降、前述したイエズス会のシンボル『HIS』の『I』を『J』に変えたしるしも残っている」

 この説明の他に、コラムでは『J』が生まれた別の説も紹介しつつ、ヘブライ文字の変遷にも言及する。色に関しては、黄色がキリスト教で差別的に用いられたのとは反対に、中国では高貴な色とされたこと、宗教改革による色彩破壊などが解説される。宗教によって異なるデザインが選択されることがある一方で、世界各地の共通するデザインもある。

 「この象徴物こそ『光背』である。人知を超えた存在であることの証明だ。仏像やキリスト像の頭の背後の光をあらわす放射状のデザインを『後光・頭光』、頭光が円形の場合は、『頭光背・頭輪・頂背円光』、背中を含めた全身を光で覆うのは『挙身光・身光・通身光・常光・丈光』などといい、それらを総称して『光背』と呼ぶ。ゾロアスター教の神アフラ=マズダーは光の輪を持っていたというし、古代エジプトやメソポタミアの太陽崇拝から発したもののようで、円は太陽(=宇宙)そのもの、生命のシンボルとして崇められてきた。

 このゾロアスター教の善悪二元論を受け継いで、光を暗黒勢力から解放するとした、三世紀にペルシャでおこったマニ教も、光の円、頭光を教祖の頭のうしろに描いた。

 そしてマニ教の頭光などが、シルクロードを介して仏教の光背となった。仏教では偶像を崇拝する習慣がもともとなかったが、一世紀後半、これもシルクロードを介してギリシャ・ローマ・イランなどの像の影響や、広く一般に仏教を知らしめようとする大乗仏教がおこったことなどで仏像をつくりはじめた。これがガンダーラ仏教美術。

 仏像の特徴のひとつに、人間を超えた存在を示すための、右巻き螺旋の髪型『螺髪』がある。これはまさしく中東・地中海文化の影響による、ギリシャ人風の縮れ毛だ。また、ガンダーラ仏教美術で仏が着ている衣装もギリシャ・ローマ風のゆったりした襞を継承している」(以上、「祈りのデザイン」)

 エッセイ風に書かれているため学術的な趣はないが、端的で大胆な歴史叙述によって本質を描き出そうとする創意がみられる。デザインという方向から世界・布教・祈りを検討することで、それぞれの宗教の枠を超えた、より広いビジョンを持つことができるかもしれない。

【3,850円(本体3,500円+税)】
【左右社】978-4865283808

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