【書評】 『アメリカ聖公会の歴史』 ロバート・W・プリチャード 著/西原廉太 監修/中原康貴 訳

 世界に広がるアングリカン・コミュニオンの一つ、アメリカ聖公会については、これまで日本語で読める詳しい書籍がなかった。だが、立教大学の礎を築いたチャニング・ムーア・ウィリアムズ(C・M・ウィリアムズ)がアメリカ聖公会初代日本伝道主教として来日したように、日本とアメリカ聖公会の関りは深い。本書は、イングランド教会から独立したアメリカ聖公会がどのようにして発展してきたかを、それぞれの時代の背景をふまえて叙述。メソジストなど他教会との関係やリバイバル運動の影響など、関連分野にも言及してアメリカ聖公会の歩みを捉える。著者は、C・M・ウィリアムズと同じバージニア神学校で学んだ司祭であり神学者。同校で教会史と礼拝学の教鞭を取るかたわら、他教会との教会間対話でも聖公会側の神学者を務めてきた人物である。

 16世紀後半、イングランド人は数度の探検旅行を経て、ロアノーク島からアメリカへの植民を始めた。そして約100年かけて徐々に教会を形成していく。

 「入植者たちがイングランドからアメリカにやって来たのは、イングランドの信仰が転換期にあったときである。ヨーロッパの多くがそうであったように、一七世紀のイングランドも一六世紀の宗教改革によるキリスト教信仰の大きな変化を受け入れようとしていた」(第1章 断片的な教会の形成)

 1688年、イングランド人にとって最後のクーデターとなる名誉革命が起こり、アメリカ大陸に入植したイングランド人たちの間の対立と混乱が一定の収拾をみる。また多くの植民地が王室直轄地となった。この時期、植民地のイングランド教会支持者たちは、マサチューセッツなど6地域に最初の教会を設立した。18世紀からはアフリカ系アメリカ人への伝道も開始される。

 そこへ現れたのがジョージ・ホイットフィールドである。1740年、彼がイングランドから北米に渡って巡回説教をし始めると、大覚醒の波が全植民地に押し寄せた。

 「ホイットフィールドはアメリカ初の真の有名人だった。……彼はイングランド教会の聖職者でありながら、他教派のリバイバル(信仰覚醒)運動の説教者、会衆派のジョナサン・エドワーズ(1703-58)、長老派のギルバート・テネント(1703-64)、改革派のセオドア・フリーリングハイゼン(1691-1748)こと友好関係を築き、各地のリバイバルをまとめて、アメリカ植民地に「大覚醒」(Great Awakening)を引き起こした」(第3章 大覚醒)

 大覚醒は植民地におけるイングランド教会の神学的性格を変え、人びとは礼拝の形式や組織のあり方より個人の宗教体験に目を向けるようになった。しかし1776年、アメリカ独立戦争が始まると、イングランド教会は分裂する。その後再編成が行われ、1792年、アメリカ聖公会が確立した。1830年からはアメリカ聖公会内外伝道協会が積極的に海外伝道を展開するようになる。

 「拡大多くは東洋と太平洋地域であった。主教ウィリアム・ジョーンズ・ブーン(1811-64)が上海伝道教区で始めた働きを主教チャニング・ムーア・ウィリアムズ……が引き継いだ。ウィリアムズ(1829-1910)も日本で活躍し、1874年に日本単独の主教となる。東京に立教大学を創設し、二つの教区(東京と京都)が設けられ、祈梼書の日本語訳に着手した」(第7章 ブロードチャーチ)

 第一次世界戦勃発から第二次世界大戦の終わりまでの戦間期は、アメリカのクリスチャンは不安定な状態に置かれた。戦後はエキュメニカルな進展がみられ、アメリカ聖公会はアメリカ福音ルーテル教会と「暫定的聖餐共有」を開始し、正教会や改革派、メソジストともエキュメニカル協議を行った。また、1967年の総会で、アメリカ聖公会がアングリカン・コミュニオンの一員であることが初めて公式に認められた。

 第10章、11章では現代社会における問題に対してアメリカ聖公会がどのように対応してきたかが述べられている。戦後しばらくは教勢が盛り上がったが、以後、礼拝参加者数は減少に転じ、礼拝の刷新が求められた。女性の司祭・主教叙任やセクシュアリティをめぐる論争にも、アメリカ聖公会は果敢に取り組んできた。1990年以降は性的不祥事や、教会のスリム化・電子化が議論された。本書の初版は1991年だが、2014年の第三版を底本に、2022年のスペイン語版への増補加筆部分を加えて、本書は構成されている。そのためコロナ・パンデミックにおける教会の対応など、近々の状況まで含めて記述されている。

 訳者はあとがきで以下のように述べている。

 「近年、アメリカにおける政治と宗教の関係への関心から、『アメリカのキリスト教』に関する日本語の書籍が多く見られるようになった。とはいえ、そのほとんどはビューリタンや福音派の視点から書かれており、独立前のアメリカにおいて多くの州で公定教会とされ、数的に優位であった聖公会のことを抜きにしては、全体を通史的に見渡すことにならないのではないかと感じることがあった。本書を通して、筆者は聖公会の歴史のみならず、長老派や会衆派がどのように大覚醒に対峙し、その後のアメリカ独立を迎えたか、また、西部開拓の中で聖公会から分派したメソジストがいかにして瞬く間に国内の最大教派になったかということを改めて学んだ。……複雑化する現代アメリカ社会において多数派ではなくなった聖公会が、変化する時代の求めに応じて何を課題とし、アイデンティティを保つための模索をどのように行ったのかを知ることができた」

 アメリカ聖公会の歴史は、その信徒以外の者にとっては、アメリカ史の一部のようにも思えるが、アメリカ史全体に関わる要素を内包しており、一つの教派の話に留まらない。また、聖公会が「Via Media」(中道あるいは中庸)として歩んできた道、すなわち両極ではなく、その中間のバランスを取った道が、現代社会の混迷にヒントをくれることもあるだろう。社会との関わりで常に「Via Media」を模索してきた歩みが、歴史となり、共有財ともなっている。

【5,720円(本体5,200円+税)】
【教文館】978-4764274778

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