【書評】 『時給7000円のデリヘル嬢は80万円の借金が返せない。』 つばき 著/うなばらもも イラスト

 リストラと高級エステサロンへの出費が同時に重なり、多額の借金を負った著者がその返済のために性風俗業界へ足を踏み入れた実録エッセイ。家庭環境など、複雑な事情からやむを得ず「裏街道」に身を投じるというイメージが根強いものの、近年ではアルバイト感覚や一時的な収入のために面接を受けにいく場合の方が多いという。

 著者もまた一時的な借金の返済のために、この道を選んだ。しかし、そこで直面したのは金銭面以上に「人として扱われない」屈辱という個人の尊厳の問題であった。

 利用者の多くはさまざまな正当的理由を抱えて〝のれん〟をくぐる。例えば「彼女と体の関係が合わない」「高齢でパートナーがいない」……中には学校で校長などの重要な役職に就く人が、「生徒に手を出すよりマシであり、犯罪を抑止するためにむしろ必要な産業だ」と主張するケースも。

 しかし、そこで著者が感じたのは「それを受け止める自分は彼らにとってどういう存在なのだろう」という実存に関わる疑問だった。「商品としての自分」が、ただ性処理をしているだけで、多くの従事者は自らの体と心が「ただの道具に過ぎない」ということに気づき、結果的に感情的な負のサイクルに落ち込んでいくという現実。

 実際、著者も数カ月勤務した後に男性から告白されたものの、自らが価値のない者であるという認識に陥っていたため他者からの愛を受け取りにくい精神環境であったという。

 またそのような心の状態でもありながら、収入を得るためには肉体を差し出す必要があり、徐々に心身のバランスを崩し、最終的にはほとんど出勤できなかった。長期的な視点で見るならば「ほとんど稼げない」ことがもっと知られるべきだと訴える。

 性風俗業界はそのほとんどが裏社会の組織によって経営されており、その点において「利用者もまた加害者であることの自覚を持ってほしい」とも呼びかける。実際、従事者の収入は客の利用料金を店から支給されるのではなく、すべて経営母体となる組織の手元に入ってから分配されるシステム。

 「性風俗は、世界最古の仕事と言われていますが、古き良きものではありません。昔から行われている負の歴史の残骸であり、人身取引です」

 当事者の生の声が盛り込まれた本著は、風俗の「リアル」な一側面をあぶり出す。さらに、性教育ではなく「性器教育」とも揶揄される日本の中学・高校において、性交渉とはどのような行為であり、それが心理的に何をもたらすかなどがほとんど語られていない現状を危惧する。

 罪にまみれた縁遠い世界として、教会では語られることのない領域だが、家庭内不和、虐待、搾取、売掛金問題など、今日的問題が凝縮した暗い闇の中にこそ福音の光は届く必要がある。表舞台から疎外され、人々に侮蔑された徴税人や娼婦たちにイエスが寄り添い、手を差し伸べたように。

【1,650円(本体1,500円+税)】
【ころから】9784907239701

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