【雑誌紹介】 「苦悩する悲嘆者」を受容する 『BIBLE&LIFE 百万人の福音』6月号

 特集「キリスト教と『グリーフ(悲嘆)ケア』」。精神科医の芳賀真理子(駒込えぜる診療所院長)が「喪失に向き合う」と題して「悲嘆」について解説する。

 「『悲嘆(グリーフ)』とは、『強い結びつきがある誰か(あるいは何か)を喪失したことに伴う極めて強い感情状態』です。ここでいう喪失体験というのは、もちろん死別や離別による喪失だけでなく、職や住居を失う、祖国や尊厳、希望を失うなど、具体的なものから抽象的なものまで、さまざまな状況があります。『人生とは喪失を生きる』とも言えますし、より具体的にいうなら、『人生とは「関係の喪失」を生きる』とも言うことができるのかもしれません」

 「たとえば、難民になると、祖国や祖国に残した家族を失います。もしかすると既に、親族や親しい人たちが殺されたがゆえの脱出だったのかもしれません。これは大事にしていた人や土地、文化との接触が絶たれるということ(外的な関係の喪失)だけでなく、アイデンティティの喪失(内的な関係の死)につながりかねません。さらに、難民申請が通らず就労許可が降りないなどの場合、『働ける能力があるにもかかわらず、社会制度として働くことができないため、人の援助に頼らざるを得ない』という、尊厳の喪失体験も起こりうるでしょう」

 栄光病院のチャプレンで、グリーフカウンセラーとして患者や悲嘆者のケアに携わる清田直人は、「悲しむ人の居場所となるために」と題して悲嘆者への向き合い方を紹介する。

 「大切な存在との死別は、その『対象』を喪失するだけでなく、『自分自身』を喪失する悲嘆体験でもあります。たとえば夫と死別した妻が、夫を失うと同時に妻としての自分をも失っているといった体験です。ですから、故人との関係に存在価値や生きる意味を見出していた人にとっては、単なる対象喪失にとどまらず、自らが生きていく力をも喪失するという人生の危機に直面している状態なのです」

 「私たちは悲しむ人や苦しむ人を見ると、早く元気になってほしいと願い励ましたり慰めます。しかし『元気なときの姿に戻ってほしい』という善意による願いや励ましは、周りが作り上げた『あなたらしさ』を悲嘆者に押しつけてしまうことになります。そして悲嘆者に『元気になれない自分が悪い』といった自己否定や『迷惑をかけて申し訳ない』といった罪悪感を引き起こさせる要因にもなるのです。そもそも周囲からかけられる助言や正論の多くは、悲嘆者自身が既に何度も考えてきたことで頭では理解しています。しかし理解することと受容することは違います。悲嘆(グリーフ)やスピリチュアルペインとは、理解できても納得や受容ができない自分に対する苦悩なのです。ですからケア提供者は、『悲嘆者の苦悩』を解決することではなく、『苦悩している悲嘆者』を受容する姿勢が期待されるのです。そのようにして自分の支えとなる存在に出会った人は、いかなる自分をも引き受けて生きていく力が育まれていきます」

【690円(本体627円+税)】
【いのちのことば社】

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