【雑誌紹介】 なんとしても暴力の回避を 『福音と世界』8月号

 特集1「戦争を起こさない責任」。斉藤小百合(恵泉女学園大学教員)の「『暴力』に抗うということ」。

 「日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、脊髄反射的に『軍事的な安全保障』意識を強める世論を足掛かりにしつつ、憲法九条を踏みにじる『軍事化』を急速に進めてきた。それは、本来あるべき議論がなされたうえでの政治的意思決定ではない。憲法九条が存在しないかのように進められる政治には、憲法が土台にあるはずの、自由で民主的な社会における、あるべき議論も見あたらない。このようにまともな政治が行われていない中で、いままさに戦争に向かっているのではないか。戦争をおこさないために私たちに何ができるのだろうか」

 「ウクライナへのロシアの侵攻直後の国連安保理におけるケニア国連大使の発言に筆者は目を啓かされた。大使は、ケニアを含むほぼすべてのアフリカの国の国境線が帝国主義的な暴力によって引かれたものではあるが、アイデンティティ、民族、宗教にこだわれば、永続的ともなりうる紛争が必至で、その代わりに『受け継いだ国境線を受け入れ』、『危険なノスタルジーにふけ』ることを断念し、『私たちは私たちのどの諸国家も諸人民も知らなかったような偉大さを目指すことを選んだのです』。ここで高らかに謳われているのは、日本国憲法において私たちが選び取った平和と響き合う」

 「ケニア国連大使の演説に現れているごとき、被害を受けた側の慧眼。それに乗じて、植民者側が植民地責任をなかったことにしてしまうこともできよう。しかし、『いまさら、さらなる犠牲を生み出すような紛争を誘発させる』ことよりも、なんとしても暴力を回避することを選ぶという姿勢に、加害の側に立つ私たちもまた、公正さや反戦・非暴力で応答するほかない。そこには、日本の、そしてそうであるから私たちの、植民地責任・戦争責任・戦後責任といったことを考えることが含まれる。それによって、いまや国際社会の公正さを恢復するために大きな役割を果たしつつある非欧米世界との反戦・非暴力の連帯につなげられるはずだ」

【660円(本体600円+税)】
【新教出版社】

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