【書評】 『心折れる日を越え、明日を呼び寄せる―― 手造りの再生へ向かう原発被災地の小高から』 小高夏期自由大学事務局 編
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故は、地域に深刻な被害をもたらした。それから13年半が過ぎた今も、その被害・影響は決して薄れていない。今も故郷に帰れない人、新たな地での生活を決断した人、地域に留まる道を模索する人、帰ってきた人、新しくやってきた人……。それぞれの置かれた状況や生活の中で、さまざまな思いが交錯している。
福島第一原発から20キロ圏内の福島県南相馬市小高区には、事故直後、全住民の避難指示が出された。避難指示が解除された今も住民数はかつての約3分の1に留まっている。この小高の再建・復興という重く大きな課題に取り組んできた人々によって、2023年9月に「小高夏期自由大学」が3日にわたって開催された。本書はその克明な記録である。
第一部では「小高に戻り、考えたこと」として、事故当日からその後の日々についての貴重な証言が語られている。このように当時を語ることは、「すごくエネルギーを使うんですよ……震災後、私たちはそれを何度もやってきました。でもちょっとおかしくなるくらい消耗するんですよ」と明かすことばは重い。
本書の中心部分というべき第二部「小高の再生を語る」では、地域の再生・復興を担う人々の熱い思いが次々に語られる。こうした動きのキーパーソンの和田智行氏は「地域の100の課題から100のビジネスを創造する」と掲げ、実際に小高でいくつものビジネスを産みだしてきた。そこに関わる人々からの発言には、原発被害という課題を超えて、広く今日の日本社会の地域課題に取り組むヒントがちりばめられている。
第三部は福島出身の高橋哲哉氏(東大名誉教授)の講演。高橋氏は原発もまた「犠牲のシステム」にほかならないと指摘し、原発政策に関わる具体的な問題を整理して示している。巻末の資料編と共に、今後も重ねて参考にされる内容であろう。
この「小高自由大学」開催に至る契機をもたらしたのは、日本基督教団小高伝道所という小さな教会であった。この事実もまた、ひとつの灯として受けとめたい。
(評者・久世そらち=日本基督教団美唄教会主任担任教師)
【1,430円(本体1,300円+税)】
【ヨベル】978-4911054260