【雑誌紹介】 絵本を楽しむ 『福音と世界』1月号

東北学院大学教授・吉田新の責任編集による特集「絵本から見る多様な世界」。編集後記によれば、同誌での絵本の特集は初。寄稿者それぞれが具体的な作品を紹介しながら絵本の持つ意義を強調する。
福音館書店代表取締役社長の佐藤潤一は「多様性という視点で考える――『扉』としての絵本」の中で、子どもに絵本を読み聞かせる意味を次のように説明する。
「絵本を構成するものは『絵』と『言葉』ですが、文字を覚える前の子どもは自分で読むことができません。子どもが絵本を十分に楽しむためには誰かが文章を読んであげる必要があります。……子どもは読み手の声に耳を傾けながら、集中して絵を見ます。そして絵に含まれている情報を読み取り、さらに想像力を働かせ、頭の中にイメージを描き出します。文章を読むのではなく、子どもは絵を『読む』のです」
「絵本の場合、子どもがまだ絵を見ていたいようなら、ページをめくるのを待つことが可能です。読み手の配慮によって、子どもは満足するまで絵を眺め、好きなタイミングで次へ進めます。これは一連の流れの中でストーリーが展開していくアニメーションとの大きな違いです。絵本の絵は動かないので、前後のページを関連づけ、その間の出来事を想像する必要があります。よく絵本を読み聞かせると想像力が豊かになると言われますが、場面と場面を想像の力で結びつける作業を繰り返すわけですから、おのずとそれが培われていくのは不思議ではありません。想像力の基盤となる知識と経験も、絵本を楽しむ過程で増えていきます。子どもに様々な絵本を読んで聞かせることには、そのような意味があるのです」
子どもの本の専門店「教文館ナルニア国」店長の川辺陽子は「ロングセラー絵本に秘められた普遍的な力」と題して書店員の立場から述べる。
「『多様性を尊ぶ世界を作ること』は、他人を尊重し(自分も尊重され)、その結果として誰もが自分らしく生きられる社会を形成することだと思います。その前提として必要なのは、まず自分が人から大切にされる存在であることを実感することです。絵本を通して親子が親密なコミュニケーションをとり、愛情と信頼の交感をすることが多様性を尊ぶ世界を作る第一歩だと考えます。子どもと大人がともに過ごす読み聞かせの時間の中から生まれる『絵本は楽しい』という実感が、その先の絵本を通した学びへとつながる大切な土台になるのです。……半世紀以上読み継がれてきた作品が伝えているのは、いつの時代にも変わらない価値である『自分らしく生きることの大切さ』ではないでしょうか」
歌手の沢知恵は「せかいのひとびととわたし」の最後で、教会のあり方を問う。
「少なくとも私が知る日本の教会は、多様性を受け入れる雰囲気があまり感じられません。似たような人たちの集まりというイメージです。多様性を受け入れるのは実にめんどくさいことで、エネルギーがいります。無理することはない気がしますが、意識の改革は必要でしょう。そんなとき、教会のおとなこそ多様性をうたう絵本を手にとってみてはどうでしょうか。分かち合い、学び合ってみてはどうでしょうか。絵本は子どものためだけにあるものではなく、どの世代のどんな人も楽しめる開かれた芸術です。もしかしたら、絵本という存在そのものが多様性をうたっているのかもしれません」
【660円(本体600円+税)】
【新教出版社】