【書評】 『パウロとパレスチナ・ユダヤ教 宗教様態の比較』 E・P・サンダース 著/浅野淳博 訳

マタイによる福音書によれば、イエスは律法学者やファリサイ派の人々に対して「律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたがた偽善者に災いあれ。あなたがたは白く塗った墓に似ている。外側は美しく見えるが、内側は死者の骨やあらゆる汚れで満ちている」(23章27節)と、〝悪しざまに罵った〟とされている。
また、パウロは律法について、例えばガラテヤの信徒への手紙では「しかし、人が義とされるのは、律法の行いによるのではなく、ただイエス・キリストの真実によるのだということを知って、私たちもキリスト・イエスを信じました。これは、律法の行いによってではなく、キリストの真実によって義としていただくためです。なぜなら、律法の行いによっては、誰一人として義とされないからです」(2章16節)と語り、ときには「律法の呪い」(3章13節)という表現さえ辞さない。
こうしたユダヤ人や律法への批判ととれる表現から、特にプロテスタント教会では長いあいだ、行いによって神から正しいと認められる行為義認を旧弊なユダヤ人の自己欺瞞とみなし、それに対してただ信仰のみによって神から正しいと認められる信仰義認をキリスト教徒の新しいあり方として対置してきた。
サンダースは本書において、このようなユダヤ教およびユダヤ人理解に疑問を突き付ける。ユダヤ人はそもそも、キリスト教徒が仮想敵とみなしてきたような姿をしていたのか。そのような自己満足的信仰を持っていたのか。また、ユダヤ人は、正しい行いをいくら重ねても「これではまだ足りず、地獄へ堕とされるかもしれない」という不安の絶えない、およそキリスト教より〝劣った〟信仰を抱いてきたのか。彼はユダヤ教の諸史料を詳細に研究することにより、キリスト教的、ことにプロテスタント的ユダヤ人理解に否を突きつけた。
巻頭には訳者によるサンダースの受容史が記されており、彼が提起した議論による、行為義認論再考への影響の大きさが概観できる。
(評者・沼田和也=日本基督教団王子北教会牧師)
【12,100円(本体11,000円+税)】
【教文館】978-4764274921