【書評】 傘の神学Ⅱ『特殊啓示論 隠れた神からの語りかけ』 濱 和弘

本書は「傘の神学」と題する著者の神学的探究の1冊で、前著『普遍啓示論』の続編にあたります。前著は現代の宗教的多元性を念頭に、神の普遍的な働きを問うものでした。それを踏まえ本書では、聖書やその焦点であるイエス・キリスト――すなわち特殊啓示の意味が問い直されます。
聖書論がおもな内容で、想定されている対論相手は、いわゆる福音派に多い、聖書の字句を守るべき命令として捉える聖書観です。これに対し、聖書を単なる規則集としてではない、一種の語りとして読む視点が提示されます。その点、本書の帯にも引用されている「ゴジラ十戒」の比喩は秀逸です(ぜひ直接手に取ってください)。
一方で、扱われている思想家や神学が多岐にわたる分、議論がやや駆け足に感じられる部分もあります。例えば、聖書の権威を教会の伝統や正典形成史に依拠させることは評価が分かれるでしょう。著者自身が、「正典としての聖書の権威は、教会の伝統の上にありつつも、その教会の伝統を吟味する一種の循環論法になっている」と記す通り、より詳細な展開が求められると感じました。
また、著者が「教会」を伝統の担い手として描くこと自体も、立場によって見方が分かれるでしょう。それは一面、正統主義の形成に「神の摂理」を認めるという神学的視点を与えます。この視点は、しかし、国教タイプの「正統派」と緊張関係を経験した歴史がある自由教会タイプの諸派にとって、咀嚼に時間を要するでしょう。そして日本のプロテスタント教会は、宣教のルーツとして多くが自由教会タイプです。
自由教会において、教会とは何よりも礼拝と信仰生活の場です。つまり、顔の見える関係の中で、個々人や教会の語り、そしてイエス・キリストを軸とする聖書に聴き、試行錯誤しながら愛し愛される、赦し赦されることを重ねてきた共同体です。この観点からは、「そのように教会や私たちを育んできたという点で、聖書は他に類を見ない書物であり、だからこそ唯一無二なのだ」という語り方もあり得るでしょう。これは信仰生活のただ中から生じてくる、聖書への深く素朴な信頼です。
ともあれ、以上の事柄は、本書が読者とともに考え続けるための「開かれた神学書」であることの裏返しです。著者は自身が属する教派的伝統を踏まえつつ、キリスト教の公同性を視野に入れてこられました。全体を通して感じられるのは牧師としての誠実さと射程の広さです。『普遍啓示論』が宗教多元的世界への開かれを志向していたとすれば、本書は、その開かれがキリスト教自身の足場を失わないために、何を拠り所とすべきかを問います。併せて読むことで、著者の神学的挑戦の全体像がより立体的に浮かび上がってくるでしょう。
(評者・徳田 信=日本基督教団蒲田教会牧師)
【2,200円(本体2,000円+税)】
【ヨベル】9784911054710
















