【書評】 『アッシジの聖フランシスコ』 藤城 清治
90代の影絵作家が「全身全霊」を込めて描いた集大成
影絵作家の大家、藤城清治氏が21年の歳月をかけて聖フランシスコの生涯を一冊にまとめ上げた。見開き60cm近い本書は、絵本というより画集と呼ぶ方がふさわしいだろう。
氏の得意とするグラデーション豊かな色彩は健在だが、聖人の物語ということを意識してか全体的に色のトーンは抑えられ、大人の美術鑑賞に堪えうる作品になっている。アッシジに足を運んだ際に描いた下絵デッサンも挿入されているが、猪熊源一郎と脇田和に師事し、慶應義塾大学在学中からすでに国画会や独立美術協会展などに入選していた氏の画力に改めて目を見張る。
アッシジで食い入るように見たというジョットの「聖フランシスコ」は、「小鳥への説教」の画の中に受け継がれているのが見て取れる。
藤城氏はキリスト者ではないが、氏の妻はキリスト者、叔父は牧師で氏の家は幼少期からキリスト教的雰囲気があったという。
「ぼくも92歳になり、文字通り生命がけで全身全霊すべての力を注いで描いた作品だ。……美しい平和な世界になるひとつのきっかけになればと願っている」。願いは作品から溢れ、見る者の心を静かに打つ。
【本体4,300円+税】
【女子パウロ会】978-4-78960-773-5