【書評】 『魔女は真昼に夢を織る』 松本 祐子

なぜ現代人はファンタジーの「魔法」を必要とするのか

 第Ⅰ部は「ガラスの靴」「氷姫」など、アンデルセン童話を彷彿とさせるタイトルの3編を収録。話の主軸が「受身の善良な女の子」から「意思を持つ冷静な女」に移ると、従来の子どもじみた設定も違った角度で読み解ける。

 「ガラスの靴」ではシンデレラの「意地悪なお姉さん」が語り部。彼女が亡き父の形見の靴をシンデレラにこっそりあげて、あのシンデレラストーリーが成就するという設定が面白い。シンデレラがあまりにいい子過ぎて、意地悪を演じるしかなかったという彼女の告白は妙に腑に落ちる。

 第Ⅱ部は「語りの魔法に魅せられて」と題した論考。「魔法もの」「魔女もの」の作品群を通し、我々にファンタジーが必要な理由を推察する。「言葉の魔法」「自己破壊の衝動」など、テーマごとにまとめられた論考は『ゲド戦記』『ハリーポッター』『魔女の宅急便』といった読者が慣れ親しんだ作品を例に、分かりやすく解説。

 「食と魔法の関係」の章で、りんごには「永遠の命」などポジティブなイメージがある反面、食べ方を間違えると創世記のアダムとイヴのようにエデンを追放され、さらに人の心を惑わせる魔力もあるとし、『白雪姫』の毒りんごを指摘する件は興味深い。

 佐竹美保の表紙と挿絵が魔女のイメージを盛り立てる。

 

【本体2,300円+税】
【聖学院大学出版会】978-4-90711-320-9

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