【書評】 『怪獣少年の”復讐”――70年代怪獣ブームの光と影』 切通 理作
大人になった「怪獣少年」による珠玉の証言録
少年時代の自身のまなざしを現在化させ、今を生きる大人としての自分と巧みに織り交ぜていく著者の語り。彼が大人である自意識を保ったまま少年に戻るという手法を成功させる鏡の役割を果たすのが、ガメラやゴジラ、ウルトラマン、さまざまな怪獣、そして大人や子どもが登場する、一連の特撮作品である。
とりわけ真船禎の証言による「殉教者ウルトラマン」は異色。彼は『帰ってきたウルトラマン』製作当時、脚本の市川森一が自らキリスト者であると公言していたこと、それは宗教をタブー視する当時の業界においては異色であったこと、自身はキリスト者ではなかったがキリスト教にシンパシーを感じてはいたこと、そして今は自身もキリスト者であることを証言している。
ウルトラマンシリーズにはどこかキリスト教的なモチーフが漂っている(最近終了した『ウルトラマンオーブ』もヨハネ福音書の闇に打ち勝つ光を連想させた)が、ここまで直接的にキリスト教そのものとウルトラマンとの関係性を証言した記事は珍しい。
悪魔は鬼の形相ではなく、「純真無垢」な子どもの姿で現れる。洗脳はいつの間にか、ごく身近な場所から侵入してくる。そうした人間の恐ろしさを、当時の撮影の禁忌を果敢に破って映像表現していった真船の姿勢は、彼のついに映像化されなかった作品案「おそろしき手毬歌」に収斂していく。それがもし完成し、放送されていればどれほどの衝撃があったかは、ぜひ本書を手に取って確かめてもらいたい。
【本体2,400円+税】
【洋泉社】978-4-80031-119-1