【書評】 『人はみな、オンリーワン―だれも幸せになる権利がある』 森 一弘
「置かれた場所で、咲くことができない」人々の生きづらさに共振
「現代の日本社会に生きることの難しさ」に焦点をあてた本書。「深刻に考えることを好まず、軽やかに生きることで、それで良しとしているよう」な日本社会にあって、カトリック東京教区補佐司教を務めた著者のもとには、複雑な人生の現実に傷ついて相談に訪れる人が後を絶たない。
そうした人々のことを著者は、渡辺和子著『置かれた場所で咲きなさい』を引き合いに、「置かれた場所で、咲くことができない」人々と呼ぶ。置かれた場所で花を咲かすことのできる人は恵まれた人。自分には耐えられないと感じたときは、誰かに相談し、別の世界を探し求めていくことも、悪いことではないと言う。
本書では、家族の問題や災害、改憲など、日本社会を取り巻くさまざまなテーマが扱われる。安倍晋三首相が掲げる「一億総活躍社会」については、その狙いが経済の活性化にあることを指摘。これまで日本社会は経済的な発展を優先してきたため、働く人々の精神の空洞化を招き、人々のつながりを希薄にし、孤独死や無縁死などの増加を招いてきたと論じる。今後目指すべきは、「一人ひとりが生きてきてよかったと実感できる質的に豊かな社会の構築ではなかろうか」。
取り上げるテーマが重く暗いため出版への不安があったと著者は言うが、人々の悲しみや苦しみに共振しようとするその姿勢からは、キリストの愛という確かな「光」が感じ取れる。
【本体1,300円+税】
【女子パウロ会】978-4-78960-781-0