【書評】 『イースター・ブック』 中村 妙子 訳

「宗教改革」に命をかけた男 マルティン・ルターによる500年前の「説教」
ルターによる福音書を主題とした数多くの説教の中から、イエスの受難と復活に関するものを抜粋した書。宗教改革史研究の碩学である故ローランド・ベイントン氏が編纂したものを、宗教改革500年を記念して新装復刊した。
同氏はまえがきの中で、天国や天使や悪魔が今の時代よりも近接したものと考えられていたルターの時代と、今のわたしたちとでは心の状態が違うが、ルターの説教は当時さかんだった伝説的な要素を排し福音書の正典に厳密だったため、現代に近い位置にあると紹介。
同書に収められている木版画は、ルターの書記だったファイト・ディートリッヒが1562年にフランクフルトで出版した、ルター訳聖書の要約からとったもの。挿絵を担当した版画家ヴァージル・ソリスの最良の作品は、聖書の挿絵だったと言われている。
「十字架の刑」の説教でルターは、キリストの十字架の意味が忘れられようとしていることへの危惧を訴える。「わたしたちはキリストの何千倍も苦しんで当然です……けれども事実はその反対です。苦しむ必要のないキリストがわたしたちの苦しみをひきうけて、わたしたち以上に苦しんでおられるのです」
常に火刑に処される危険にさらされていたルターの、命がけとも言える真摯な信仰の姿を見る。
【本体1,800円+税】
【新教出版社】978-4-40052-782-4