【書評】 『キリシタン音楽入門』 皆川 達夫
禁教時代を生き延びた資料で解き明かすキリシタンと音楽の関係
『洋楽渡来考』の筆者が読者の要望に応え、その専門性の高い内容を手軽で読みやすいダイジェスト版に整えた。ヨーロッパ音楽が日本に導入されたのは明治開国前後ではなく、キリシタン期の16世紀ごろだという。
楽譜つき典礼書「サカラメンタ提要」、ラテン語聖歌の歌詞が日本語で書かれている「キリシタン・マリア典礼書写本」、かくれキリシタンが唱える「オラショ」、筝曲《六段》と《クレド》(ニカイア・コンスタンティノポリス信条)のつながりなどについて章が割かれている。
カトリックのミサは現在もメロディをつけて司式をする箇所が多々あるが、これらの資料が物語るように、この時代のミサもそのようなスタイルが取られていた。
かくれキリシタンが唱える「オラショ」には訛化したラテン語のものがあること、日本語の「オラショ」には現行のカトリック教会の祈願文とほぼ一致することなど、発見も多い。
徳川幕府のキリスト教弾圧で楽器、楽譜ともに焼却されたのは残念だが、奇跡的に残った資料からこれだけのことが解明されるとは感服至極。筆者が40年にわたりキリシタン音楽研究に熱中した理由を、先祖がキリシタン弾圧をする側だったことの贖罪と自問する姿に神のみ手を見る。
【本体1, 600円+税】
【日本キリスト教団出版局】978-4-81840-970-5