【書評】 『旅する教会』 永本 哲也 他
もう一つの宗教改革「再洗礼派」の歴史と今
「宗教改革と再洗礼派」に関する最新の入門書。「安住できる国家を持たない再洗礼派の教会は、生き残るために迫害のたびに移住し新たな安住の地を求めた旅する教会だった」。
もう一つの宗教改革「再洗礼派」の500年を描き、人類史全体の中に彼らを位置づける。本書では、多様な聖書的伝統としての今も生きる隣人、再洗礼派の歴史と今が明らかになる。
「教会が、イスラームやユダヤ教、仏教など他の宗教を尊重するようになり、宗教間対話を行うようになっている。このような価値観が浸透してきている現代だからこそ、宗教改革と再洗礼派の歴史を振り返った時、その内部には多様性に満ちた様々な改革の試みがあったことが重視されるようになってきた」
「再洗礼派の誕生と受難」「再洗礼派の諸相」「近代化する社会を生きる再洗礼派」の三部構成で、25の論考を収録。いずれも平易なことばで歴史的事件・経緯の要諦を鮮やかに浮き彫りにし、読みやすく飽きさせない。初学者にも配慮した学者の筆致が光る。研究者にも、巻末収録の年表は重要であろう。
16世紀の歴史的「再洗礼派」のみならず、彼らのアジア・アフリカ・ラテンアメリカ・日本への拡大と定着、その過程も丁寧に記述。「グローバルな家族」である再洗礼派を描き切っているので、一読すれば、丸洗いしたように理解が変わり深まる。
「研究のバトンを、次の世代に渡すことができるだろうか。もし誰かが受け取ってくれるなら、これ以上の喜びはない。再洗礼派による宗教改革の試みを描いたこの本が、読者の方々の宗教改革理解を少しでも豊かにすることを願ってやまない」という著者たちの企図は、十二分に成功している。
【本体2,800円+税】
【新教出版社】978-4-40022-725-0