【書評】 『カルト宗教事件の深層』 藤田 庄市

誰もが陥る可能性 「信仰」の闇に光を照射

 

 通常、カルト宗教による事件を扱う時には、詐欺、恐喝、殺人など、裁判の記録や新聞報道などを手掛かりとして、その凶悪性を考える。だが本書のタイトルがカルト宗教事件の「真相」ではなく「深層」となっていることにも表れているとおり、本書は判決とはいったん距離をおいて、事件を起こした当事者たちの「信仰」の奥深くへと踏みこんで考察している。

 本書で著者は繰り返し主張する。当事者たちの信仰の構造、つまり精神の自由を奪うありようを考えなければ、なぜためらわず人を騙したり殺したりできるのかを理解することはできないと。著者はそれを「スピリチュアル・アビュース」という造語で表現している。スピリチュアルブームに乗じて信者の精神を侵し、虐待するからである。

 特に注目したいのは、オウム真理教の一連の事件についての考察であろう。麻原彰晃の説法からのふんだんな引用と、元幹部たちによる「信仰告白」。読んでいて奇妙なカリスマ性さえ伝わってくるから鳥肌が立つ。外部から閉ざされた世界で、しかも麻原の人柄に心酔しきっている中で、このような説法をされたら……。果たしてそれに「否」と言えるのか? 当時の彼らの思いは「ほんとうはまちがっているけれども、やらないとしかたがない」ではない。「これこそが相手にとっての救いなんだ。自分は相手の救済に寄与しているんだ!」と、彼らは信じる喜びのうちに相手を殺したのである。

 巻末にはキリスト教系のカルト案件も紹介されている。信徒が被害者/加害者と思うどころか「これこそが恵み」と信じて自己や他者を傷つけてしまう構造は、オウムその他のカルト宗教と変わらない。本書は犯罪者を追及する本ではない。誰もがスピリチュアル・アビュースに陥る可能性を持つこと、その「信仰」の闇に光を照射する本なのである。

【本体2,800円+税】
【春秋社】978-4-39329-929-6

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