【書評】 『ポップカルチャーを哲学する』 高橋 優子
「『新世紀エヴァンゲリオン』を(キリスト教的観点から)解説してほしい」という学生の願いから生まれた本。大学の教壇でいかに興味を持ってもらえるかと奮闘し、数多の作品群と格闘しながら講義を組み立てていった著者の苦労が偲ばれる。
『1Q84』『風立ちぬ』『永遠の0』『進撃の巨人』『聖☆おにいさん』『とある魔術の禁書目録』など、いずれも話題に上った全24作品を批評しつつ、そこにある「文脈化された福音」がいかなるものかを論じる。『福音と世界』に連載された「現代日本の福音(エヴァンゲリオン)」をまとめた。
幅広いファンを獲得した作品が何らかの宗教性を有している場合、それが日本の若者たちの宗教観を表しているのではないかというのが著者の視点。
取り上げられる作品の世界観、宗教観がキリスト教的であるか否かは問われない。むしろ批評においてキリスト教との相違点が際立つこともある。若者の多くが意識的にであれ無意識的にであれ求めている宗教性と、キリスト教との違いを知る──そのような若者に、それでも福音を伝えることについて考えを深めることができる。
著者は無論、批評においてキリスト教に通底するものも取り上げ、論じる。若者たちがキリスト教に無関心なのか、それともキリスト教を求めているのかは単純な二分法では語ることができない。彼らは拒絶していながら、一方で求めてもいるのだ。その揺らぎや曖昧さをむしろ肯定的に読み取り、かつ鋭く分析する。
本書をひもときつつ、非キリスト教的なるものから逆照射し福音を考えるもよし、ずばりポップカルチャーに眠る潜在的福音を探求するもよし。学びどころ、使いどころのある1冊。
単行本化に際し、書名をあえて「哲学」としたところに編集者のこだわりと意図を感じる。
【本体2,000円+税】
【新教出版社】9784400310822