【書評】 『神のいのちの物語』 広瀬由佳

「私が『生きる』ってどういうことなんだろう」
「どうしたら『生きる』ことができるんだろう」
そんな問いとともに、著者の「いのち」との格闘がはじまる。まずは自分自身の「いのち」から。次に周囲の人々の、そして世界中の「いのち」に至るまで。
その格闘はキリスト教神学と密接に結びついている。福音派系神学の限界をよく知る著者が、だからこそその限界を引き延ばし、その先へ進もうと格闘する。罪を「ずれ」と読み、神の「いのち」の向かう先を「矢印」「物語」「冒険」と表現する独特の言葉選びに、趣味の短歌の影響を見る。
「この地図は決してすべてを教えてくれるわけではありません。実際に歩いてみなければその道の困難さはわかりませんし、地図には書いていないハプニングも起こります。地図の読み方で仲間とぶつかることもあります。そして大変なことに、私たちの冒険を導くリーダーは、はっきりと答えを示すタイプではなく、……何通りも解釈できるような言葉をかけ、私たちの自主性を尊重してくださるのです」(192頁)
このように、キリスト者がときに安易に求めたくなる「聖書的な唯一の正解」を著者は明確に退ける。安易に正解を設定することで、そこから排除されてしまう人やものが存在することを知っているからだ。同時に曖昧な理想論で終わることもしない。
特に第4部では、いまも議論が続くいくつかの倫理的課題(人工妊娠中絶、差別、戦争、自死、霊的虐待)を具体的に挙げて論点を整理しつつ、わからないものをわからないと認める。神の「いのち」に対して徹底的に、どこまでも真摯に向き合う。
そして、それらの倫理的課題において、ある人々を安易に裁き、排除してきたキリスト教界の欺瞞を鋭く喝破する。「キリスト者は特に、聖書を武器にするとき、どこまでも人に対して残忍であれます。聖書がお墨付きを与えていると思えば、正義感で人を差別したり排除したり殺したりできてしまうのです」(248頁)
ここまで社会問題に切り込む〝信仰書〟は多くない。しかし信仰について語るのであれば、本来どれも避けては通れないトピックのはずだ。それらを長く棚上げし、あるいは安易な「正解」で取り繕ってきたキリスト教界に対する、著者の魂の叫びが行間からあふれ出ているように思える。
(ライター 河島文成)
【1,650円(本体1,500円+税)】
【ヨベル】9784911054857














